マイ・ボディガード
守りたい――生きる希望をくれたのは9歳の少女だった。ババーン!
でタイトルが『マイ・ボディガード』で『レオン』から10年、お正月最高の感動作…とくりゃ、きっとそういう映画(?)であろうとおおかたの観客は予想、しかしこの宣伝、客をだまくらかすもの、原題は“Man On Fire”すなわち『萌える男』=デンゼル・ワシントンが天才子役少女ダコタ・ファニングに萌えまくる…じゃなくて『燃える男』、『レオン』風味を期待した向きには、中盤から、デンゼルが一人で仕掛ける報復戦争に「えげつなー」と呆れかえることでしょう。
なにぶん脚色ブライアン・ヘルゲランド、『LAコンフィデンシャル』『ペイバック』『ブラッドワーク』『ミスティック・リバー』など、えげつない(ダークな)犯罪サスペンスを書かせたら第一人者、デンゼルが悪人に仕掛けるえげつない拷問シーンにこれこれ、これですよと一人ごち、まるで『わらの犬』か『ローリング・サンダー』のような後味の悪さが素晴らしい、と言ってもいられないのは監督トニー・スコット、なんでも20年来映画化を熱望、気合い入りまくって、トニー・スコット前作『スパイゲーム』はオーソドックスかつ力の抜けた演出に大いに感心したものの、今回ついCM監督出身の本性まるだし、馬脚あらわしガチャガチャした演出、たとえばダコタ・ファニングが今まさに誘拐されんとすシーンは猛烈にサスペンスフルになるべきシーンにガチャガチャエフェクト満載、何がなんだかよくわからなくなってどうでもよくなってくるではありませんか。脚本そのままキャストもそのまま早速イーストウッド監督でリメイクしてほしいところです。
それはさておきこの作品のテーマはまたまた「復讐」、『キル・ビル』でも引用された「復讐は、冷たくして食べた方がおいしい料理だ」という言葉もつぶやかれたりします。
対テロ部隊で謀略・暗殺にあけくれたデンゼル、信仰篤くて自分の犯した罪を反省中、しかしいったん強力なモチヴェーションを得れば、法も正義もへったくれもない殺人マシーン=「死の芸術家」に嬉々として変貌、確かに児童誘拐は許しがたくデンゼルならずとも犯人一味を拷問して殺して拷問して殺して突っ走りたい気になるのはわからんでもないですが、法を完全に無視するのはいかがなものでしょうか。
ダコタ・ファニングの誘拐を「9.11同時多発テロ」に重ね合わせれば、暴走デンゼルはアフガン+イラクで報復の虐殺をくり返すアメリカと重なって見えてきます。今やアメリカは「燃える男」で、この作品のデンゼルのように、腹の虫がおさまるまで暴走し続け、いくところまでいって破滅を迎えるのをアメリカ人は了解済みなのかも知れません。静かに怒りを炸裂させるデンゼルの姿は痛快ですが、なんだか釈然としない結末でございます。
そんなことはどうでもよくて『マイ・ボディガード』という邦題に違和感をおぼえるのは、ダコタ・ファニングにとっては「マイ・ボディガード」ですが、ダコタ・ファニングは途中で退場してしまうし、デンゼルはダコタを救出するために奮闘するのでないから、ていうか、マット・ディロンも出てた『マイ・ボディガード』(1980年)という同名の佳作がありながらわざわざこんな邦題をつけるのはいかがなものかと。『マン・オン・ファイア』のままでよいのではないか? と。
とはいえ、2時間26分の長尺なれどテンポよろしく退屈しないのでオススメです。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)