京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 04 > 1215
 Movie Review 2004年12月15日(Wed.)

お父さんのバックドロップ

 読むたびに涙する“伝説の名作”が最高のスタッフで遂に映画化! 僕はお父さんが大っキライ。ババーン! 中島らも短編を、『愛を乞う人』『血と骨』鄭義信が脚色。監督はテレヴィのヴァラエティ演出出身、これが劇場長編デビュー作の李闘士男。

 以下ネタバレ…というか、「僕はお父さんが大っキライ」で「お父さんのバックドロップ」とくれば、きっとお父さんが大っキライで、お父さんはバックドロップを決めるのであろう、と、お話の展開がすべて読め、実際その通りに展開しますのでどなた様も安心してご鑑賞いただけると存じます。

 期せずして鄭義信脚本作品、『お父さんのバックドロップ』『血と骨』『レディ・ジョーカー』と、同時期に三本も公開中です。そのうち『お父さんのバックドロップ』と『血と骨』、どちらもお父さんが好き勝手なことをして、息子はそんな父親が大っキライというお話で、『血と骨』では父子が決して和解しないのに対し、こちらではすんなり和解します。

 だからどうしたというわけではないのですが、この『お父さんのバックドロップ』は『血と骨』の対局にある作品、あるいは『血と骨』が「仮想敵」とした作品かも? どちらも鄭義信が脚本というのが面白い。と一人ごちました。

 閑話休題。80年代大阪の下町アパートの風景、中小プロレス団体の巡業風景などなかなか興味深いのですが、後半クライマックス、いざお父さんが熊殺し空手家とのガチンコ試合を決めてからがすんなり、つかえるところなく滞りなく進行してしまった印象です。

 なぜ、お父さんは「死ぬほど恐い」空手家との試合に挑戦するのか? なぜ、割とすんなり息子は父と仲直りしてしまうのか? 私はそのへんにひっかかりをおぼえました。さっそく原作を読んでみたところ、原作ではそのへんがわかりやすく、映画とは違った幕切れがあざやかで茫然と感動したのですが、映画ではちょこちょこ改変されていて、少しわかりにくくなってしまっている、と思いました。

 世間一般では「映画と原作小説は別物」というのが定説になっておりますが、私の場合は、「すぐれた映画化作品は、原作と同じ物である」と思っております。黒澤明監督は「脚本づくりで問題が出てきたら、原作に戻る。すると、答えは原作にすでに書いてある」みたいなことを言われておりました。つまり、原作の設定を変えるのは、原作者が考え抜いた末の結論を変えてしまうわけですから、たいへん危険であると思うのです。ヘタすると原作が持つリアリズムを壊してしまう。この『お父さんのバックドロップ』の場合は、原作が持つリアリズムを損なう映画化になってしまった、のではないでしょうか。

 原作のお父さんは上田馬ノ介をモデルにしたヒール(悪役)専門レスラーで、息子がお父さんを嫌うのには、そもそもプロレスに対する不信があり、茶番を演じる父に対する軽蔑があります。子供が親の職業をさげすむのは、たとえば溝口健二『赤線地帯』でも見られた普遍的なテーマで、原作はそういう父がセメント(真剣勝負)に挑むことによって、息子の尊敬を取り戻すという、単純明解な感動があります。(皮相な見方?)

 映画では、お父さんは物語の途中でヒールに転向します。息子がお父さんを嫌う理由が変質しています。お父さんはプロレスで忙しく参観日にも来てくれなかったしお母さんが死んだときにも帰ってこなかった、お父さんなんか大っキライ! その言葉の裏には、「ボクはお父さんのことがいちばん好きなのに、お父さんはプロレスがいちばん好きなんだね」みたいな感情がこめられていると想像しますが、そういうわだかたまりは、父がセメントに挑むことでは解消されないのでは?

 父は、「自分のため、亡き妻のため、そして息子のために戦う!」と宣言し、それは感動的ですが、一方で「何をいまさら都合のいいこといってるのか? 結局プロレスがいちばん好きなんじゃないか?」みたいな感慨を抱いてしまいます。これは私の特殊的、ひねくれたものの見方で、ティム・バートンによる父子和解の物語『ビッグ・フィッシュ』に素直に感動できないのと同根でございます。

 それはともかく、最近の「K-1」など見ましても、空手家の突き・蹴りの破壊力はすさまじく、たとえベテランプロレスラーであってもこの作品のように蹴りがヒットすれば、一瞬で意識が刈り取られてしまうはずでは? と思いますし、父は竹刀を相手に特訓めいたことをしますが、もっと異種格闘技戦にふさわしい合理的な戦略――たとえば、アントニオ猪木がモハメド・アリと戦ったときの「アリ・キック」ような作戦、そのための訓練をしてほしかったです。

 そんなことはどうでもよくて、父=宇梶剛士、息子=神木隆之介クンがバチグンの好演、やはりクライマックスではホロリと落涙させられてしまうのでした。

 中島らも氏の登場シーンも、ついホロリとさせられますので、オススメです。

☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Dec-14