レディ・ジョーカー
あんたらには、わかりやしないよ。ババーン! 高村薫ベストセラー小説を傑作『愛を乞う人』『ターン』の平山秀幸監督で映画化。脚色は、『血と骨』『お父さんのバックドロップ』も公開中の鄭義信。
それはともかく私も原作読んでおり、あまり憶えていませんがたいそう面白く読んだ記憶あり、しかし上・下巻/二段組みたっぷり長大な原作を2時間にまとめるのはそもそも至難の技の不可能事でございましょう。
で実際、映画はなんだかよくわからないところ多く、まさしく(原作を読んでいない)あんたらには、わかりやしないよ。という感じ、しかしやはり「映画と原作小説はぜんぜん別物」なのでして原作と比べてどうこう言うのはナンセンス……って、毎日書いてることが違う気がしますが、「グリコ・森永事件」をモデルにした犯罪を切断面として、80年代以降の日本をざっくり切り取って見せた、中心的主人公不在のロバート・アルトマン監督作品のような群像劇として見ればよいのではないかしら? サスペンスフルでスリリングな犯罪ドラマを期待すると、肩すかし食らうこと必至ですのでご注意ください。
日活撮影所創業50周年記念だそうでキャストが渋く、「レディ・ジョーカー」を名乗る犯罪グループ面々は、渡哲也、吉川晃司、大杉漣、吹越満、加藤晴彦…うーん、渋い! 一人ずつサクッと紹介されながら競馬場に集まってきて、観客席で茫然と競馬をながめるシーンは「これから一体、どんな話が始まるのか!?」とワクワクドキドキ、…って原作読んだので知っているんですけど期待ふくらむ名場面でございます。『ユージュアル・サスペクツ』のオープニングを思い出しました。
わけてもやさぐれ刑事・半田役の吉川晃司が素晴らしいです。猛烈にカッコいいです。この設定で吉川晃司主演で一本撮ってほしいです。というか、『レディ・ジョーカー』も半田刑事に話を絞って、半田主観のハードボイルド映画にしておれば2時間でほどよい娯楽作に仕上がったかも? と思います。
誘拐される社長は長塚京三、その姪は菅野美穂、日の出ビール重役に岸辺一徳、警察側には國村隼…などなど渋い配役ぞくぞく、一応の主人公=合田刑事はテレヴィドラマ『弟』(私は未見)で若き裕次郎を演じた徳重聡も良い感じ、誠に見事な配役である。うむ。
それぞれ登場人物に色々な事情があることがほのめかされますが、わかりやすい形で展開されることはない。主犯格の渡哲也にしてから犯行にいたった動機は断片が示されるだけ、観客の想像にまかされております。犯行グループ「レディ・ジョーカー」にしても、メンバーがどのように知り合ったかも謎。結局なにごとも解決していない幕切れに見え、娯楽映画としてはいかにもいごこちが悪く、ちょっと『殺人の追憶』(ポン・ジュノ監督)を思い出しました。
考えてみれば、そもそもモデルとなった「グリコ・森永事件」自体が未解決で、80年代日本の漠然とした不安の象徴みたいなもの、モヤモヤスッキリしない作品として映画化するのが正解なのかもしれませんね。この作品は、警察のダメさ・大企業の気持ち悪さ、ひいては日本という国のあり方に思考をめぐらせることを観客に強いているのであった。
と、平山秀幸は応援している監督さんですので奥歯に物の挟まったいい方をしておりますが、バチグンにスリリングな原作から、ここまで淡々とした盛り上がりどころに乏しい作品を作るのはいかがなものか? 前作『魔界転生』もたいそうつまらなかったよなぁ、それよりはずいぶんマシとしても、面白くなりそうな題材、画面の雰囲気もよいのに勿体ないです。
平山秀幸監督作品は、主要登場人物が少ないほど面白く女性が主人公だとなお良し。というところでしょうか。
とりあえず、吉川晃司のカッコよさは半端じゃないのでオススメです。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)