Mr. インクレディブル
『ファインディング・ニモ』のアカデミー賞スタッフ最新作! ババーン! …ですが、感動傑作『アイアン・ジャイアント』のブラッド・バード監督の最新作でもあります。
これまでピクサーのアニメは、おもちゃ・ありんこ・モンスター・魚など、CGでもなるたけ違和感が少なくなるようなキャラが選ばれてきましたが、今回はついに全面的人間キャラに挑戦、ヘタすると『ポーラー・エクスプレス』の二の舞、超気持ち悪くなってしまうのを見事な表情の付け方・動きで回避、CG人間ですと「魂の不在」というか、「あやつり人形」っぽくなってしまいがちなところ、バッチリキャラが立ったキュートなキャラ群が創造され、人間のドラマとして成立しているのはブラッド・バードの功績も大きい、と憶測するのですが、反面、これまでのピクサー作品に比べると若干、対象年齢が上がっているかも知れません。幼児のみなさんには退屈なところが多いはず。
そんな幼児のことはどうでもいいとして、スーパーヒーローたちが、わけのわからない訴訟を起こされヒーロー活動を禁止されて十数年、色々あって再び、今度は親子そろってヒーロー活動を再開するまで…という筋立てです。
ブラッド・バード監督と製作総指揮ジョン・ラセターはディズニーが設立した芸術学校カルアーツの同級生で、いかにもディズニー学校出身らしく、かどうかはわかりませんが、共和党色の強いお話となっております。強い力を持つ者が正義を行おうとしても、法律などで規制されてしまう…というのは、『ダーティ・ハリー』と同じテーマですね。
以下ネタバレですが、彼らヒーローファミリーが戦う「敵」の設定が面白いです。彼らが戦うのは「シンドローム(症候群)」という名の似非ヒーロー、シンドロームは特殊能力を持たない身、ギミックを開発し、自作自演でヒーローになろうとする……。なんとなく、元々リベラルでありながら共和党にもぐり込んだネオコンや、謀略機関CIAと重なって見えます。
『ダーティ・ハリー』、そしてクリント・イーストウッド諸作では、主人公は常に世間と対立し、偽善者どもに孤高の戦いを挑んできました。この『Mr. インクレディブル』、しかしそれでは寂しすぎるし、充分な力を発揮できない。偽善者ネオコン+謀略機関CIAと戦うには、孤高をつらぬいている場合でなく、家族のサポートが必要であり、ヒーローは結集しなければならない…とのメッセージがこめられているのであった。
か、どうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして、とすると、いったんはシンドロームの目論見が成功して、世間はシンドロームを新時代のヒーローとして受け入れてしまう、インクレディブル一家+フロゾン(声はサミュエル・L・ジャクソン!)が真実を訴えても世間は聞く耳を持たず、石もて追われる…みたいな段階がほしかったかも? と思ったり。
そんなことはどうでもよくて、Mr. インクレディブルが潜入する秘密基地など、往年のショーン・コネリー時代『007』を彷彿とさせるタッチが素晴らしいです。音楽もジョン・バリー風の往年のスパイ・アクションな感じでカッコいいですね。
ピクサー作品はすべてのシーンに必ずひと工夫(トンチ)があり、煮詰めに煮詰められて上映時間が短めに抑えられて、少々強引・駆け足なところがある印象でした。しかし今回は115分と割と余裕の上映時間、緩急が効果的につけられており、アクションシーンもスピーディでありながら、最近のアメリカン・アクションにありがちな、何がどうなっているかわからなくなってどうでもよくなることなく、すこぶる鮮やかでございます。
今回鑑賞したのは字幕版、さて吹き替え版も見に行くか! って感じでバチグンのオススメです。
☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)