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 Movie Review 2003・10月7日(TUE.)

アダプテーション

公式サイト: http://www.adaptation.jp/

『マルコビッチの穴』で一躍注目された脚本家チャーリー・カウフマンは、ベストセラー小説『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』の脚色を依頼されます。ところがこれがどうにも映画になりそうにないノンフィクションで、うんうん悩むうち、「そうだ、×××だ!」と思いつくのでした。ババーン! ちなみに“Adaptation”とは、「脚色」のこと。身も蓋もない題名でございますね。

 以下ネタバレ。

 C ・カウフマンが思いついたアイデアとは、「脚本家自分自身を映画に登場させる」という反則技です。劇中劇としてメリル・ストリープ主演『蘭に魅せられた男〜』の物語が進行しながら脚本家が話の続きを書いていき、やがて劇中劇と脚本家の物語が錯綜し、という入れ子構造になっております。『マルコビッチの穴』にマルコビッチが入ったらどうなるか? みたいな、というか、物語の終わりが脚本の完成になり、それが映画の始まりになる循環構造、M.C.エッシャーの『描く手』みたいな? よくわかりませんが、珍品でございます。

 同種の、脚本に悩む脚本家といえば『パリで一緒に』(1963 年リチャード・クワイン監督) があり、って私も大昔にテレヴィで見たきりなのでよく憶えていないのですが、脚本家ウィリアム・ホールデンがタイピストのオードリー・ヘップバーンと次々にひねり出すアイデアを二人が演じ、ロマンチックコメディの脚本を書く過程がそのままロマンチックコメディになる、というトンチの効いたお話でした(うろおぼえ)。また、フェリーニの名作『8 1/2』も、似た構造でしたね。

『アダプテーション』の場合、映画好きの方以外は知らない脚本家が悩みまくる映画なぞ誰が面白がるのか? というのが疑問でございます。あ、映画好きの方々には大ウケですか? ともかく、思いつきは面白いけれども中身の薄さは天下一品でございます。

 中身が薄くて苦労しているのはこの作品だけではなくて、最近のアメリカ映画のある種の傾向と言えましょう。そもそもアメリカ映画はネタに苦労しまくっており、パート 2 ・パート 3 もの、コミックやテレヴィ番組の映画化、旧作のリメイク、海外作品の英語化ばかり、それぞれハリウッドの脚本の定石にのっとってそれなりに面白い作品になっておりますが、定石を嫌って作家主義を貫くと、途端に中身の薄さが露わになってしまうのであった。

 C ・カウフマンの場合、内容のない作品をハリウッド映画(=商品)として成立させるには、適当なところで定石を踏まないと駄目だということに気づいており、しかし類型的なハリウッド映画になるのは主義に反する。そこで人格が分裂して登場するのが、双子の兄弟=ドナルド・カウフマンであります。「適当なところでまとめなければならない」という強迫観念がドナルドという分身を生み出し、ドナルドの助けも借りて、結局ハリウッド的な嘘くさいクライマックスを持つ脚本としてこの『アダプテーション』は完成するのであった。

 脚本が完成してしまえばドナルドは用済みとなって死んでしまいますが、死ぬ間際に、兄弟に和解が訪れます。それはハリウッド的な嘘くさい脚本にも幾ばくかの真実がこめられているのだなあ、という C ・カウフマンとハリウッドの和解なのであった。

 私は、C ・カウフマンのあれやこれやの試行錯誤に、そんなもん出発点が間違ってるんやん、ケン・ローチやヘルツォークのように、ざっくり撮って面白くなる題材をまず見つけた方が良いんじゃないですか? と暗闇に問いかけたのでした。

 ここまで脚本家がクローズアップされた映画というのもかつてなかったと思いますけど、監督はスパイク・ジョーンズ。クライマックスは、いきなりハリウッド調になりますけど、MTV 出身監督なので、ハリウッド調になりきれていないのが残念でございます。ワニ見せ過ぎ、と申しましょうか。

 そんなことはどうでもよくて、ニコラス・ケイジの双子が凄い! 同一画面に N ・ケイジが二人いるのは、CG やなんかを使っているのでしょうけど、途中からホントに二人いるような気分になります。N ・ケイジの好演もあるのでしょうけれど、スパイク・ジョーンズの演出も見事でございました。

 冒頭『マルコビッチの穴』の撮影風景が再現されており、マルコビッチやジョン・キューザックが特別出演するなど楽屋落ちもたっぷり、実在する『蘭に魅せられた男〜』の原作者スーザン・オーリアンや、脚本家養成セミナー主催者ロバート・マッキーの人格をここまで歪めて、というか、ひょっとすると悪意をこめて描いてしまっているのも凄いです。ポール・トーマス・アンダーソンや、ウェス・アンダーソンなど作家主義的なアメリカ映画が好きな方にはバチグンのオススメ。

 私は、卒然と、『仁義なき戦い』の脚本家・笠原和夫氏の言葉を思い出していたのでした。

「脚本家は自らの芸術を追究するのが仕事ではなく、自らも参加した作品の『芸術度』と『商品度』を冷静に算定するのが最大の任務である。脚本家は『作家』なんだからと、文士気取りになるのが一番滑稽な錯覚である」
(笠原和夫著『映画はやくざなり』所収「秘伝 シナリオ骨法十箇条」より)

 つまり、史上稀に見る、滑稽な作品。一見の価値ありです。

☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-oct-07;

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