南の島に
雪が降る
昭和 18 年、パプアニューギニア。
日本の敗色は濃厚となっていた。
食糧は枯渇、病人、負傷者が続出した。
兵隊たちは殺伐としていた。
そんな中に一人の男がいた。
加東大介。
戦後の黒澤明作品に欠かせない戦後の黒澤明作品『七人の侍』『用心棒』などで強烈な印象を残す名優である。
出征する前、加東は前進座の若き売れっ子俳優だった。
加東は、兵隊たちを励ましたい、と思った。
これは、戦時中のニューギニアに「マノクワリ歌舞伎座」をつくった男たちの壮絶なドラマである。
(以上、田口トモロヲのモノマネで)
「祝! 卒寿記念 銀幕の天才・森繁久彌映画祭」で上映された一本。加東大介の実話を元にした原作を 1961 年に映画化。加東大介が自分自身を熱演、…という言葉では足りないくらい、熱い魂をこめて演じており、その気合が今でもビシビシ伝わり、私は、何度も胸が熱くなったのでした。
驚くべきは当時の脇役陣の豊穣さで、連隊長(だったかな?)は志村喬、その部下に三橋達也、「演芸部隊」旗揚げに参画するは西村晃、入隊オーディションにやってきたのは、伴淳三郎、桂小金治、有島一郎たち。
有島一郎は、三河漫才(?)を得意とする「僧侶」という設定なので、モデルは小林よしのりの“じっちゃん”なのでしょうね(小林よしのり著『戦争論』所収『南の島に雪が降る』参照)。
さらに、練習中の部隊にフラリと現れジャズピアノを弾くのはフランキー堺、後ほど部隊に加わるは渥美清、観劇に訪れるのは、三木のり平、小林桂樹、森繁久彌…などなど目も眩む豪華さです。
それぞれに見せ場があって、鎮魂の思いを笑いに転嫁する“芸”を見事に披露します。監督は、『駅前』シリーズの久松静児。舞台を正面据えっぱなしのカメラで撮っており、ときおり観客や舞台裏の表情をインサートします。やはり、芸ごとを撮るには、こういう撮り方でないとダメです。
『シカゴ』たらいう米国の芸ごとをモチーフにした洋画がございますが、チョコマカチョコマカとカメラが動き回って編集も目まぐるしく、そうでもしないと間が持たないと思ったのでしょうが、ちゃんと「撮られるべきもの」が出来上がっておれば、そういう小細工は不要である、と私は、卒然と確信を深めたのでした。
殺伐とした戦場で、演芸によって兵隊さんたちが癒されたように、ささくれた現代映画群に辟易していた私も、この 40 余年前の作品に大いに癒された。ていうか、繰り出される芸の数々が、ほのぼのと脱力気味で、ちょうどいい具合に酸っぱい、というか香ばしい感じでございます。加東大介と西村晃が二人並んで真剣な顔で、日舞(?)を踊るシーンに腰を砕かれます。しかし、加東大介主演による『瞼の母』の再現舞台は、さすがになかなか素晴らしいですね。
そんなことより、他の兵隊さんはみな栄養失調状態やというのに、加東大介、小林桂樹、フランキー堺がでっぷりと太ってるのはどういうことか? というツッコミはおいといてバチグンのオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
- 修正補足
- ふと思い出せば加東大介が出演している黒澤明作品は『羅生門』『生きる』『七人の侍』『用心棒』くらいで、「欠かせない」わけではないのでした。ていうか、脇役でもっと出ている印象が強いのですけど。
Original: 2003-May-21; Update: 2003-May-22;