アントワン・
フィッシャー
きみの帰る場所
アメリカ海軍、空母勤務水兵アントワンは、喧嘩っ早い問題児。懲罰をくらい、ついでに精神科医にかかることを命じられます。嫌々カウンセリングに訪れてみれば、そこにいたのはデンゼル! ぽつりぽつりと語り出されたアントワンの過去とは…。ババーン!
みなさまの予想通り、やさぐれていた孤児アントワンが、デンゼルに癒され、ガッツある黒人に成長、彼女もゲット、失われていた家族を取り戻す、というお話。意地悪な見方をすれば、海軍にはいいカウンセラーがいるし、彼女だって出来ちゃうよ! という黒人向けの海軍 PR 映画ですし、アントワンが見る見る癒されていくのも「そんなうまいこと行くか?」、というか、性格上の問題がすべて過去のトラウマによるもの、みたいな感じで困っちゃう、というか、カウンセリングで語られる過去の思い出って、よく捏造されていると聞くが、どうなんでしょ? とか、色々と疑問を呈さざるを得ないのです。しかし! 初監督デンゼルの丁寧な演出は、静かでありますが、沸々と煮えたぎる魂(SOUL)がこもり、(ネタバレですけど)、アントワンの夢が叶うシーンに私は滂沱たる涙を流したのでした。デンゼル最高!
やはり、さすがデンゼル、俳優の自然な表情をとらえるのに長けており(適当)、例えば恋人同士の何気ない会話シーンは、ジョン・カサヴェテスを彷彿とさせます。と、いうか、黒人俳優の顔が脇役にいたるまで素晴らしく良いのです。キャスティングの勝利。アントワンの友達、育ての母、(ネタバレですけど)実の母など、顔だけで彼/彼女の人生が想像できる、もの凄い顔です。キャスティング・ディレクターは、ロビ・リード=ヒュームズ(Robi Reed-Humes)という人で、IMDb で調べてみれば、スパイク・リーの多くの作品や『パンサー』などブラック・ムーヴィーの名品の数々に参加していることがわかります。アカデミー賞に「キャスティング・ディレクター賞(ブラック)」があれば、受賞間違いなしですね。
そんなことはどうでもよく、アントワンの成長とは、トラウマが癒された結果、というより「言葉」を操れるようになったから、と申せましょう。そう、この作品は、黒人にとっての「言葉」の重要性を描いた作品でもあります。当初、アントワンはデンゼルとの会話を拒否する。この頃のアントワンは、「言葉」に不自由し、兵隊仲間からからかわれても上手に言い返せず、いきなり殴りかかる阿呆です。しかし、デンゼルとの会話、デートのシミュレーションで訓練を積み、アントワンは恋を語り、ポエムをたしなんでデンゼルにプレゼントするまでになる。
母親との対面シーンは、言葉を操れる黒人と、そうでない黒人を対比します。(ネタバレですが、)アントワンの母は、最後まで押し黙ったままで、言葉を操れない黒人の人生の過酷さを、その、もの凄い顔ににじませるのであった。
デンゼル初監督にしてなかなかの秀作ですが、ちょっとラストが甘いかも? やはり、ラストは、一人前の兵隊に成長したアントワンがイラク攻撃に参加、イラク兵を殺しまくる! そしてバグダッドに入城、現地の子どもに「ドシタノ? ダイジョブ」と日本語で語りかける……それならば秀作の域を脱してもの凄い傑作になったであろう、ってよくわかりませんが、ともかく、黒人がいっぱい出て来ますのでブラックムーヴィー好きは勿論のバチグンのオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-May-15;- 関連記事
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「アントワン・フィッシャー」