キープ・クール
『初恋のきた道』のチャン・イーモウ(張芸謀)監督、1997 年の日本未公開作が今ごろ公開です。さてチャン・イーモウの監督作を振り返ってみれば、
- 『紅いコーリャン』(87)
- 『ハイジャック台湾海峡緊急指令』(88)
- 『菊豆』(90)
- 『紅夢』(91)
- 『秋菊の物語』(92)
- 『活きる』(94)
- 『上海ルージュ』(95)
- 『キープ・クール』(97)
- 『あの子を探して』(99)
- 『初恋のきた道』(00)
- 『至福のとき』(02)
- 『英雄』(02)
…ふむふむ。張芸謀にしてはイマイチの『上海ルージュ』と、泣ける傑作『あの子を探して』の間の作品が『キープ・クール』である。ババーン!
まず、チャン・イーモウらしからぬ壊れた構図、動き回る手持ちカメラ、不自然な照明に驚くのであった。なんでも当初、『パルプ・フィクション』風の、3 つくらいの話を詰め込むつもりだったとか、…と言うより、カメラワークがウォン・カーウェイ(王家衛)+クリストファー・ドイル風で、『恋する惑星』みたいな作品を作ろうとしたのではないか? と私は一人ごちたのでした。
お話は、現代北京、露店商のチアン・ウェン(『鬼が来た!』監督・主演の人)は、元彼女チュイ・インのことが忘れられず、しつこくつきまとっていたけれど、元彼女チュイの現在の恋人、ドロン・劉にボコられてしまいます。その時、通りかかった技術者チャンのパソコンを壊してしまったからさあ大変! …と、チアン・ウェンが元彼女チュイを追いかけ回すオープニングから、コロコロ思わぬ展開を見せる疾走感が素晴らしいです。
私、カメラをブンブン振り回す映像は苦手なのですが、この『キープ・クール』の場合は、張芸謀自身が演じる行商人や、『至福のとき』でもいい味出していたチャオ・ベンシャンなど、脇役に至るまでキッチリとキャラが立っており、彼らと主人公チアン・ウェンとのやり取りが絶妙、いい役者がいて、キッチリと演出すれば、カメラがどう動こうとエモーション(何?)が生まれるのですね。無内容をごまかすためにカメラを振り回しているのではない、と申しましょうか。
ところが前半の疾走感はどこへやら、後半の、主人公チアン・ウェンと技術者チャンの、レストランでのやり取りは、舞台が限定されていることもあって、停滞感が漂います。と、いうか、主人公チアンと元彼女チュイのラヴロマンスがどこかにすっ飛んでしまっており、我々観客は、ラヴロマンスのその後を見たいのに、延々と違う話が展開、結局ラヴロマンスのその後が描かれることなく、一体、どうしたことか。
と、前半は素晴らしいのですけど、作品としてのまとまりに欠け、「キープ・クール 日本未公開も むべなるかな」と、一句ごちつつ、張芸謀が自らのスタイルを壊しまくった実験的な作品で、『あの子を探して』以降の快進撃への転換点と言える作品、張芸謀マニアの方にオススメです。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Jul-23;