グレースと侯爵
御年 78 歳、これまで低予算・少人数スタッフで生活の断片を活写する「掌編」(何?)ともいうべき作品を撮ってきたエリック・ロメールが、フランス革命直後の激動の時代を舞台にコスチューム・プレイ(時代劇)を作ったことに驚かずにはおれないのであって、と言いましてもロメールはこれまでにも何本かコスチューム・プレイを作ってきたことを私は知らないだけなのであった。
いや、油絵の背景に CG で人物を合成して、フランス革命当時を再現するというロメールがとった手法にこそ驚くべきなのである、と言いましても、かつてロメールは、名撮影監督「カメラを持った男」ネストール・アルメンドロスとともに『緑の光線』などで、「いかに画面を自然な光で満たすか?」という実験に取り組んできたのではなかったか? かような実験にも驚くにはあたらないのであった。
とはいえ、油絵で描かれたパリを実写の人物が闊歩する光景は、「普通の CG」やロケセットで再現されたパリよりも当時の雰囲気を感じさせるのであり、と言いましても「当時のパリ」がどんな感じだったかなんて私が知る由もないのですが、なんとなく「昔のパリ」のイメージは絵画によって形作られたものですし、「普通の CG」やロケセットが再現するにしても絵画が参照されるわけですから、絵画をそのまま背景に使う方が時代の雰囲気がよく伝わるというのはなかなか素晴らしい発見でございますね。
って何を言っているのかよくわかりませんが、語られるのは実在したイギリス女性、グレース・エリオットが革命直後をいかに生きたか? で、逃亡者をかくまってハラハラドキドキなどございますが、昔の愛人オルレアン公爵とのあれこれなどはいつものロメール風の物語。つまり、面白いのか面白くないのかよくわからないのですが、と、いうかフランス革命直後の政治情勢をよく知らない私は今ひとつストーリーが飲み込めなかったのですけれど、とにもかくにも全ての画面がバチグンの美しさで、実写と背景の境目がチラチラするのはご愛敬というか、そんな瑕疵はどうでもいいやん? って感じ、炸裂する老人力に私は呆然と「なんか凄い映画かも?」と一人ごちたのでした。
映画というものはそもそも見せ物として始まったらしいのですけど、約 100 年前にリュミエール兄弟が撮影したモチーフは印象派の画家たちが描いたものと共通している、などと申しますが、そんな感じの絵画とリンクする根元的な映画の魅力を湛えているというか、原初的な見せ物としての映画として見ても十分お楽しみいただけるのではないでしょうか? ってよくわかりませんね。バチグンのオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)