ブレッド & ローズ
『リフ・ラフ』『レイニング・ストーン』などでイギリス労働者の悲哀を描き、『大地と自由』ではスペイン人民戦線、『カルラの歌』ではニカラグアのサンディニスタ革命、という具合に対象をラテン社会に広げてきたケン・ローチ監督が、今度は不法滞在・不法就労ラティーノの視点から現代アメリカを描きます。
主人公マヤは故郷メキシコの国境を越え、姉の住む LA へ。姉と同じビル清掃員の仕事に就きます。清掃員の監督官はマヤに言います。「お前がこの仕事に就けるのは俺が世話をしてやったからだ。手数料をもらうぜ。つまり、お前の給料は 2 ヵ月間半額だ!」…おっさん無茶やで! しかし姉が無理矢理頼み込んで得た仕事ですから、否も応もありません。日々のパンを得るためならば従順に働くのみ。しかし人はパンのみに生きるに非ず。バラが必要なのであった。
マヤたち清掃員の前に、民主党系運動員サムが現れ、そそのかしを始めます。「君たちの給料は組合員に比べて格段に低い! 社会保険もない! 労働者諸君、立ち上がろう!」。やがてマヤたちは“ジャニター(清掃員)に正義を”運動に加わり、権利を求めて立ち上がるのであった。ババーン!
と、ケン・ローチの左翼魂が炸裂、ムキムキの社会派、運動のキャンペーン映画なんですけれど、これがもう、あらゆるアメリカ映画が束になっても敵わないほど“面白い”映画なのであります。オープニングから、もう目が釘付けというか。
「清掃員は透明人間になる」とベテラン清掃員は言います。ビルで働くビジネスマンにとって、清掃員は「見えない存在」であり、もはや同じ人間とすら思われていない。これは、アメリカ映画とアメリカに住む人々との関係でもあります。アメリカ映画には見えない/見ようとしないアメリカが存在する。アメリカ映画には、「一体全体、この映画が作られたモチベーションは何なんでしょうか?」という作品が少なからずあり、ただ儲けるためだけのマーケティング映画も多いのですが、語られるべき物語はいくらでも転がっているのですね。ケン・ローチはアメリカ映画人に向かって、「アメリカにも映画のネタはゴロゴロ転がっているのに、君たちは何をそんなに悩んでいるのだい?」とでも言うかのように軽々と、スリル、サスペンス、笑い、涙、カタルシスに溢れる娯楽作を作ってしまうのであった。
ゲリラ宣伝活動で清掃員たちが乗り込む金持ちのパーティが、ハリウッド俳優専門の弁護士のパーティ、というのが面白いです。ティム・ロス、ロン・パールマン、ベネチオ・デル・トロなどのスターがカメオ出演しております、という話はどうでもいいのですが、ハリウッドとはアメリカ支配層の宣伝機関/国民操作の道具であることが鋭く暴かれる場面であります。というか、かつてはジョン・フォードが『怒りの葡萄』を作る、という具合に、普通に社会批判として機能していたハリウッド映画に対する挑発なのであった。適当。
ネタバレですが、ノー・フューチャー感ばかりが残るイギリスを舞台にした作品と違って、なんと! 清掃員の運動はあっけなく勝利を得ます。なんだかんだ言ってもアメリカはリベラルな民主主義がより発達した国なんですね。っていうか、マスメディアが取り上げたことが勝利の大きな要因であり、アメリカの「リベラルな民主主義」のお手軽さにビックリです。
と、そんなことはどうでもよくて、泣ける映画や笑える映画は数あれど、「熱くなれる映画」は滅多にございません。とにかく見てくださいませ。バチグンのオススメ。
☆☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)