スコルピオンの
恋まじない
老いてますます盛ん、こじんまりとした佳作をコンスタントに製作し続ける、ウッディ・アレン主演・脚本・監督の新作です。
1940 年代ニューヨーク。ウッディ・アレン扮するは、保険会社の腕利き調査員 C・W・ブリッグス。彼が巻き込まれた宝石強奪事件の真相とは? ババーン! というお話で、上司ヘレン・ハントとのウィット、ペーソス、ヒューモアあふれるしゃべくりまくり丁々発止のやり取りがあったり、謎の富豪令嬢シャリーズ・セロンによる誘惑があったり、って感じで、微妙にハンフリー・ボガードのハードボイルド味を漂わせ、『ヒズ・ガール・フライデイ』(ハワード・ホークス監督)のような、ソフィスティケイテッド・コメディというかスクリューボール・コメディというか、そういうアメリカ映画のクラシックの雰囲気がたまらなく素敵でございますハッピーな気持ちになれることウケアイ、と言いたいところですが、今年 68 歳になるはずのウッディ・アレン、いつの間にか見た目がすっかり老人になり果てており、そんな彼がラブコメディの主役かつ、ハードボイルドな主人公を演じるというのは、余りにも無茶・無体というか、誰も止めなかったのかい? と余計な心配をしてしまいました。良くできている作品の中にあって、ウッディ・アレンその人こそが異物と感じられて仕方ない、ちゅうか、タフガイが演じて当たり前の主人公をあえてウッディ・アレンが演じることのおかしさを狙ったのでしょうかね? それならば、シャリーズ・セロンはウッディ・アレンにセクシュアリティを感じている設定ですけど、「ジジ専」だった、とかいうオチが欲しいところです。
映画好きではない普通の観客は、なぜこんな貧相な年寄りが主役なのか、理解不可能なのではないでしょうか? ストーリーそっちのけで、ウッディ・アレンがいつ心臓発作で倒れやせぬかと冷や冷やでした。その点、ウッディ・アレンよりも年上、クリント・イーストウッドの『ブラッドワーク』は見事な映画だったなあ、と、そんなことはどうでもよく、会話主体の展開に“老い”が微妙に感じられ、連発されるギャグの数々に心が芯まで冷えましたとさ。
と、主演俳優に無理があり、ああ、もしこれがウッディ・アレン主役でなかったらさぞ愉快な作品になっていたことでしょうなあ、メル・ギブソンとかどう? と嘆息しつつも、こういう無茶な企画を押し通してしまうところにウッディ・アレンの“老人力”の萌芽を認め、これから 70 歳に向かうウッディ・アレンの今後に期待。ウッディ・アレン好きの方にはオススメ、というか演出・脚本は見事でございます。ギャグはさぶいですが。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)