マーサの
幸せレシピ
ドイツはハンブルク、フランス料理店勤務、30 代のマーサは「街で 2 番目」と評判のシェフですが、「お客様は神様」「お客様はいつも正しい」という“顧客満足”の視点は持たない職人気質にて、「このフォアグラ、生やないか!」「いーえ、ちゃんと火が通ってます」「まあまあ今すぐ作り直します」「何言ってるの! 火が通ってることあんたも知ってるでしょ!」と、客、そしてオーナーと衝突することもしばしば、人のために料理を作ることは大好きなのですが、満たされぬものを感じる日々。「あたしの料理の価値がわからぬ田舎者どもめ」と毒づくにはお人好し過ぎるのでカウンセリングに通ってみたり。ある日姉が事故で死に、8 歳の姪のリナをひきとることになってはてさて、というお話でございます。ババーン!
孤独なシェフ=マーサと、母を亡くしてしまった少女との交流がたんたんと語られ、今回が長編デビューとなったサンドラ・ネットルベック監督の視点はクールですけれども見終わったときにはあったかいものがこみ上げ、嗚呼、やはり人は一人では生きていけぬのだなあ、というどうでもいい感想はどうでもよくて、料理を映し出す映画というのは『料理長(シェフ)殿、ご用心』『タンポポ』『コックと泥棒、その妻と愛人』と、何とはなしに独特の魅力を放っているのは、食欲は性欲と並んで人間の基本的な欲望でありますから、ただ、料理を作る、料理を食べる光景に視線が惹きつけられてしまうのはいたしかたないことですけれども、テレヴィでは手っ取り早く視聴率を上げようと食べ物を題材にした番組が陸続と製作され、それは火曜サスペンス劇場のおっぱいポロリシーンと似たようなものではないか? 映画に料理やセックスシーンを散りばめるのは、観客に退屈を催させぬ手っ取り早い方策であり、しかしその点、この『マーサの幸せレシピ』は料理頼みに陥ることなく、テレヴィコマーシャル風においしそうな料理を映し出すこともなく、きっちりとキャラクターの感情の流れを映し出そうとする心意気やよし、でございます。
そんなことはどうでもよく、地味ですけれどもシミジミと良い映画です。けど、地味です。だって、ドイツ映画だもん。オススメ。
☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)