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 Book Review 2003・2月12日(WED.)

海辺のカフカ

 村上春樹、『ねじまき鳥クロニクル』以来の長編小説でございます。

 東京在住、田村カフカと名乗る少年が 15 歳の誕生日に家出を決行。

 戦時中の、児童の奇怪な集団失神事件。

 ナカタさんという、猫と話すことができる老人。

 それぞれ無関係なストーリーが語り始められ、一点に向かってずんずん進行していく様は、ポール・トーマス・アンダーソン監督『マグノリア』のようであり、あからさまに『マグノリア』にインスパイアされた挿話もあって、そういえば『マグノリア』がヒットした後、アメリカでそれ風の映画が色々と作られ、しかし『マグノリア』ももともとはロバート・アルトマン監督『ショートカット』の影響下に製作され、そうそう、『ショートカット』は村上春樹が好んで翻訳するレイモンド・カーヴァーの短編を原作としていたのであった。

 ってそんな話はおいといて「猫と話す」「幽霊」「カーネル・サンダース」など、超常的な出来事が次から次へと起こるので、ファンタジーと読めるのですけど、ファンタジーといっても現実逃避では決してなくて、いざ現実をありのままに見つめてみれば、世の中には想像を絶する出来事が数々起こっておりまして、そういう想像を絶する出来事について思考を停止させたりとか、鼻から否定するとかではなく、起こってしまった事実は事実としてうけとめ、想像をさまざまに巡らせるのが、タフに生きていく、生き残っていくために必要なのでありましょうね。タフに生きていけるかどうかは、想像力にかかっている、そんなことを感じました。逆に言えば、ナイーヴとは想像力が欠如した状態を言うのではないか? とか。ってよくわかりません。

 そんなこともどうでもよく、とにかく猫探しの名人・ナカタさんのキャラクターがバチグンに素晴らしく、ナカタさんはここでは脇役的存在なのですが、「ナカタさんの猫探し事件簿」みたいな連作短編なんかあったらいいなあ、と思うのであります。

 読み出したらグイグイ引っ張られていく感じはスティーヴン・キング級の引力にてバチグンのオススメ。ってか本当に読みやすい文章に驚嘆。

BABA

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