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 Movie Review 2003・12月11日(THU.)

東京ゴッドファーザーズ

『パーフェクト・ブルー』『千年女優』と傑作続く、今敏(こん さとし)監督最新作。今回は、三人のホームレス男女が、ゴミ捨て場に捨てられた赤ん坊の親を捜して東京を彷徨する、ハート・ウォーミングなクリスマス・ストーリーでございます。

「ゴッドファーザーズ」と申しましても、コッポラ監督『ゴッドファーザー』的マフィア話ではなく(ヤクザさんも登場しますが)、ジョン・フォード監督名作『三人の名付け親』(3 Godfathers)にちなむ題名、海外名作映画からインスピレーションを得て自由に翻案、一個の映画を仕上げるとはプログラム・ピクチャー華やかなりし頃の日本映画の雰囲気、『千年女優』もそうでしたが、今敏監督こそ日本映画黄金時代の雰囲気を今に伝える監督であります。

 この『東京ゴッドファーザーズ』、大掛かりなセットもなく話は小粒、芸達者な俳優を使い、脚本の面白さでひととき(90 分以内)の楽しい時間を観客に約束するという、「プログラム・ピクチャー」的映画をアニメーションでやってしまっているのが凄い、というか、そういうのが実写では作れなくなってしまったところに日本映画の不幸がある(…と偉そうなことを言えるほど、最近の日本映画を見てませんが)

 構図や編集は極めてオーソドックス、「アニメっぽさ」が極力排除され、「実写でもいいんじゃない?」と勘違いしてしまいそうですが、今敏監督がイメージする役者の演技・風景のクオリティは実写では実現不可能、今やオーソドックスな映画を作る能力を実写映画界は失ってしまった、と言える。スターが出ているわけでない、テレヴィドラマの映画版でなくベストセラー書籍の映画化でもない、「普通の映画」は今やアニメーションにのみ存在するのであった。「普通の現代劇のアニメーションなんて、実写で描けるから意味が無い」、というのは本末転倒で、実写映画界は CG やら MTV 風の演出に侵食され「普通の現代劇」を作る能力を失っているから、アニメで作られた、というわけですね。ムダのない脚本、わかりやすい演出、入念に準備されたロケーション撮影、的確な俳優の演技、省略の効いた編集……などなど、「映画の王道」は、アニメに移った。そういえば、アメリカアニメの傑作『モンスターズ・インク』もオーソドックスな映画でしたね

『東京ゴッドファーザーズ』が実写映画化されたならば、「ウェルメイドないい話」が途端に嘘くさいものに変質すること必至、「ウェルメイドないい話」を映画として成立させるには高い技術(と、勢い?)が必要で、かつて 1950 年代以前「夢の工場」映画会社スタジオがそれを持っており、現代においては世界最高水準・日本アニメスタジオがそれを持つのである、と私は一人ごちたのでした。

 そんなことはどうでもよく、ギン、ハナ、ミユキ、三人のホームレスのメリハリの効いた演技が素晴らしく、江守徹、梅垣義明、岡本綾ら声優さんもバッチグー、ハナがギンを罵倒する長回しは最高でございます。自称「元競輪選手」ギンが、自転車でダンプカーを追いかけるアクション、雪景色東京のロケなどウットリするほど美しいシーン続出です。

 テンポのいい展開の合間、息抜きシーンで、

 人生の 貸し借り済ませ 大晦日

 …など、ハナが俳句を三首ほどひねり、これが絶大な息抜きの効果をあげております。俳句の「脱力効果」は素晴らしいですね。

 ともかく、最近ハリウッドのクリスマス映画といえば、『グリンチ』『サンタ・クローズ』など何が面白いのかさっぱりわからん感じ、クリスマス・ストーリーはこうじゃなくっちゃ! 日本アニメスタジオがフランク・キャプラ的クリスマス映画を見事に作った! 『キル・ビル』『ラスト サムライ』の意趣返しって感じでバチグンのオススメ。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Dec-10;

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