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 Movie Review 2003・12月10日(WED.)

ラスト サムライ
レビュー Vol. 2

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 この作品は「日本人は、何を失ってしまったのか?」を描き出します。それすなわち「名誉 honor」であると。……って、「あんたらアメリカさんには言われたないわ!」って感じでしょうか。もし本当に日本人が「名誉」を失っているのなら、アメリカが責任の一端(あるいはほとんど?)を負っているのでは? 戦後約半世紀にわたって、日本を半ば占領し、属国としてコントロールし、日本人の名誉・信義・誇りを奪ったのでは? 当のアメリカが今ごろ「日本人は『名誉』を失ってしまっている!」と嘆く映画を作るとは、よくわからないのですが、いや、そうではなくて、アメリカにも様々な政治潮流があって、十把一絡げに「アメリカ」と括るべきではないのであります。アメリカにも名誉・信義を重んじる「日本人の真の友人」が存在するのです。

 ズウィック監督は、ハーヴァード大学で元駐日大使エドウィン・ライシャワー教授のもとで学ばれた、と漏れ聞きます。ハーヴァード大・ライシャワー日本研究所といえば、「日本を分析、管理、教育するグローバリスト日本対策班の本拠」(『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』副島隆彦著より)で、「グローバリスト」とは、「アメリカ帝国の力で、今後も世界各地を指導、管理、教育してゆく」(『悪賢いアメリカ騙し返せ日本』副島隆彦著より)と考えている人々です。アフガンやイラクを西洋化しようとしている人々であり、日本人から名誉を奪ってきた人々でもある、と言ってよい(のか?)

 ズウィック監督は、そういうグローバリストの拠点で日本文化を研究していたのですね(日本研究所に在籍していたかどうかは不明)。『ラスト サムライ』の日本描写が、微妙な違和感を伴いながらも驚くほど正確なのは、ハーヴァード大、ライシャワー日本研究所の到達点の高さを示しております。

『ラスト サムライ』は、欧米式の近代化を進めようとする大村(グローバリストの手先)と、武士の名誉・信義を守ろうとする叛乱士族の対立が描かれます。近代化を進めるため大村の言いなりだった明治天皇は、叛乱士族のリーダー勝元(渡辺謙)の忠信に応え、アメリカとの条約締結を決然と拒否します。

 時代劇の形を借りて描かれるのは、まさしく日本の現在の姿に他なりません。日本人は、今こそ「名誉」「信義」を思い起こし、屈辱的な条約を破棄しなければならない! アメリカの軍隊と行動をともにすべきではない! とズウィック監督は訴えます。現在、日本をアメリカの属国扱いする数々の条約(日米地位協定、日米構造協議、安保条約など)が結ばれており、なんだかよくわからない内に自衛隊のイラク派兵計画が進められ、日本人がイラクで殺されたりしています。アメリカの手先・大村と、自衛隊派兵に性急な小泉首相が重なって見えやしないか? いまこそ日本の主権者たる一人ひとり国民は、当時の主権者=明治天皇のように断固たる態度を取るべきではないか? あるいは、戦国時代の武器を取って叛乱を起こすとか? と、私は一人ごちたのでした。

 ズウィック監督の『マーシャル・ロー』(1998 年)は、ニューヨークがテロに見舞われて戒厳令(マーシャル・ロー)が敷かれるというお話で、11.9. 同時多発テロを予言したのみならず、テロが「ブローバック」であることを示していました。「ブローバック」とは、「アメリカ国民に秘密で実行された諸政策が、意図せぬ結果となってアメリカ自身に襲いかかってくる諸結果」(『アメリカ帝国への報復』チャルマーズ・ジョンソン著)のことです。

「ブローバック論」の提唱者チャルマーズ・ジョンソンがどういう人かというと、

 ライシャワーの権威的な古い日本学と闘って勝った人なのだ。日本の知識層は、こういう大きな事実を知ろうともしないが、ライシャワー博士こそは、「日本は、欧米諸国並の近代化社会 a modernized society になったのである」という定義を打ち立てた人だ。それに対して、チャルマーズは、「いや日本は、西欧基準の近代社会 a modern ではない」という日本異質論を立てた人(『悪賢いアメリカ騙し返せ日本』副島隆彦著より)

 …で、ライシャワー派から「リヴィジョニスト・オブ・ジャパン」と呼ばれているそうです。ライシャワー流の「日本観」を修正(リヴィジョン)した、というわけですね。この『ラスト サムライ』では、「日本は、西欧基準の近代社会 a modern ではない」、あるいは「西欧基準の近代社会になるべきではない」と主張されます。ライシャワーの教え子には、チャルマーズ・ジョンソンを尊敬し慕う方が多いそうで、ズウィック監督もまたその一人、ライシャワーの下で学びながら、その後リヴィジョニストの立場に立った、と言えましょう。ネイサン・オールグレンが「サムライ・スピリット」を発見する過程は、そのままズウィック監督の思想遍歴をなぞっているのであった。

 また『ラスト サムライ』は、日本人のためだけでなく、アメリカ人に向けてもメッセージを送ります(ラスト近く、大村と明治天皇が英語で議論するのを思い起こそう)。ネイサンが目撃した「ネイティブ・アメリカン虐殺」は、ベトナム、アフガン、イラクなどなどで繰り返されるアメリカ帝国の横暴の象徴に他ならず、アメリカ人もまた「名誉」を喪失しているのであった。ネイサンが日本人の名誉を尊重することによって、自らの名誉を取り戻したように、アメリカは他国の名誉を尊重すれば、自国の名誉を取り戻すことができるのである。…って、当たり前のことですけれど、そんなことすらわからなくなっているのがグローバリストってことでしょうか? …と、私は呆然と一人ごちたのでした。

 そんな生半可な知識を元にした解釈はどうでもよく、渡辺謙、真田広之、福本清三ら演じるサムライがメチャクチャカッコいい! 特に真田広之は、外国映画に出演した日本人では、『ブラック・レイン』松田優作以来のカッコ良さです。日本人が、ハリウッド映画で堂々たる演技を見せる姿に、私は呆然と目頭を熱くしたのでした。チャンバラアクションも、ハリウッド流の美しい映像+目まぐるしい編集ですが、動きが見事に捉えられており、超カッコいいです。また、戦国武将といえば「衆道」、そういう雰囲気も微妙に漂って淀川長治氏が存命なら絶賛されたかも知れません。もちろん「外国人が喋る、変な日本語」好きの方も、ティモシー・スポール(マイク・リー作品の常連俳優)大活躍で大満足必至、バチグンのオススメ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Dec-10;

参考文献
副島隆彦 著
世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち
悪賢いアメリカ騙し返せ日本
チャルマーズ・ジョンソン著
アメリカ帝国への報復
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