クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶ
栄光のヤキニクロード
前 2 作『オトナ帝国の逆襲』『アッパレ! 戦国大作戦』と、すっかり大人が喜ぶシリーズになってしまった映画版『クレヨンしんちゃん』シリーズ、もう『クレヨンしんちゃん』でなくてもいいのでは? とツッコミを入れた方も多かろうと存じます。しかし、イランで子ども向け映画にこっそり政治批判が盛り込まれるように(『運動靴と赤い金魚』など)、子ども向けの作品にこそラジカルな主張が存在するのである。日本においても、「個人は国家に殉じよ」とする『ゴジラ』シリーズと、「いや、家族こそ国家の基礎である、家族の幸福が優先される」とする『しんちゃん』シリーズが激烈な思想闘争を繰り広げているのであった。
そんな適当なことはどうでもよくて、今回は、前作までで「演出」を手がけた水島努が「監督」に昇格…って、「演出」と「監督」ってどう違うの? と疑問がムクムクと湧いてきますが、それはさておき、『嵐を呼ぶジャングル』までの普通の『クレヨンしんちゃん』に戻った、と申しましょうか、原点回帰が果たされております。
「今夜は焼肉よ! みんな早く帰ってきてね」とワクワクの野原一家が巻き込まれた陰謀とは? 謎の鍵は熱海にあり! と、野原一家は熱海を目指すのであった、というシンプルなストーリーで、野原一家と陰謀団のおっかけアクション満載、ズルズルと滑りがちなギャグを散りばめ、ご家族そろってお楽しみいただけるスペクタクル巨編となっております。
陰謀団の指揮官が『地獄の黙示録』のキルゴア大佐風だったり、「変な顔のおじさん」はスティーヴ・ブシェミみたいだったり、『お熱いのがお好き』風のギャグがあったり、映画好きが喜びそうな小ネタも満載、オタクの方も喜んでいただけるのではないでしょうかね。っていうか、はっきり言ってこの辺の映画ネタはさぶい。さぶ過ぎる。せっかくしんちゃんのゴキゲンギャグであったまっても、急速に観客席が冷えてしまいます。「映画好き」にも困ったものですね。
そんなことはどうでもよくて、家族はいったんばらばらになって熱海を目指すのですが、しんちゃんはマウンテンバイクで峠を越える! 追う陰謀団はロードレーサーのプロトン(集団)! MTB とロードレーサーの公道バトルに手に汗握らざるを得ません。しんちゃんが駆る MTB は、チタンフレームにカーボンハンドル、パーツは最高級の XTTR 、補助輪付き。バトルの過程で補助輪がはずれ、危うし! ですが、しんちゃんは見事に MTB を乗りこなし、「うお、おら、自転車に乗ってるぞ〜」と喜ぶしんちゃんに、私は「やはり自転車最高である。うむ」と目頭を熱くしたのでした。
野原家が熱海に到着した時点で、「話が終わった」感が訪れ、というか、こんなに焼肉から遠く離れた地点で緊張の糸が切れてしまっていいのか? その後の陰謀の全貌はどうでもいい感じで、脚本的に苦しいのですが、やっぱり焼肉おいしいね、ってことで、見終わった後はつい焼肉食べてしまったことです。三条鴨川ほとり「牛角」まあまあオススメ、っていうか大人気でした。みな、『クレヨンしんちゃん』を見て焼肉が食べたくなったに違いない、恐るべし『クレしん』! んなわけない。
『オトナ帝国の逆襲』『アッパレ! 戦国大作戦』みたいなのを期待すると肩すかしを食らうし、それ以前の作品に比べてもさぶいギャグが多いのですが、MTB +ロードレーサーによるアクションが素晴らしいのでオススメです。
☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)