ボウリング・
フォー・
コロンバイン
1999 年 4 月 20 日、コロンバイン高校で起きた高校生による銃乱射事件を軸に、「なぜアメリカでは銃による殺人事件が圧倒的な数で発生しているのか?」を考察する、マイケル・ムーアの突撃ドキュメンタリーです。
さて、なぜか? それはアメリカが銃社会だからである、銃を規制しようとする動きはあるが、NRA =全米ライフル協会が規制に反対し続けており、故に銃はいつまででもお手軽に手に入り、銃による悲劇が多発するのだ、というのが、表層的な考察です。マイケル・ムーアは一歩踏み込み、カナダも銃の普及率が高いが射殺事件は随分少ないではないか、原因は他にあるのでは? と、考察を深化させます。
インタビューに答えてマリリン・マンソンは、企業が利潤を上げるため、メディアに恐怖を煽らせているからだ、と語ります。企業とメディアの合作による情報操作が社会をどんどんダメにしている、それが疑問の答ではないか? 私は卒然と納得し、最高に素晴らしく刺激的な作品である、うむ、と一人ごちたのですが、それもこのインタビュー場面まで。以降、マイケル・ムーアの言動が怪しく感じられてきます。ムーア自身もメディアの人間なので信用できない、という印象なのですね。
コロンバイン高で被害にあって障害を持つ青年たちと、マイケル・ムーアは、K マート本社に「銃弾を売るな」と抗議に赴き、適当にあしらわれてしまい、二回目の抗議にはマスコミ各社を連れて押しかけます。すると K マートは、即座に、銃弾販売を取りやめる声明を発表します。マイケル・ムーアは、マスメディアの力で K マートに圧力をかけたわけですね。メディアの暴力性を告発しておきながら、もう一方でちゃっかりメディアの暴力を利用する。いかがなものかと。
メディアの注目を集めれば運動の目標が達成されてしまう、というのでは、運動は世間を騒がせることが目的となり、一揆的・ゲリラ的なものになって行くのでは? それはメディアのセンセーショナリズムを助長することではないのでしょうか? 結局、メディアを動かした者が勝つ、それがアメリカ社会なのでしょうけれど、よくわかりません。
ケン・ローチの『ブレッド & ローズ』で、結末がヤケにあっさりしているな、と思ったのですが、ケン・ローチは、「メディアが運動を決定的に左右する、それがアメリカである」と指摘していたのですね。というのは余談。
マイケル・ムーアの主張は、結局のところ、アメリカ白人が度を超して臆病であり、転じてそれが他者への攻撃となって現れるのだ、同じ日に起こった、コソボ空爆とコロンバインの事件は同じ根っこを持つ、ということのようです。クライマックスは、全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストンへのインタビューです。マイケル・ムーアのツッコミにたじたじとなっている(ように見える)ヘストンの姿に、観客は、ヘストンが本当は臆病なアメリカ白人で、全米ライフル協会に人種差別主義の匂いをかいでしまうのではないか? と私は危惧するのです。メディアによる暴力的な情報操作をムーア自身が行っているのではないでしょうか?
オパール店主もオススメの副島隆彦の著書『アメリカの大嘘』から全米ライフル協会に関する記述を転載します。
全米ライフル協会は、伝統的にライフル銃をアメリカ人が各々家に備え持つ権利を主張し続けているのであって、自動小銃やピストルについては政府による規制を認めようとしている。銃による犯罪を起こした者に対しては、厳罰に処すべきだとする。
(中略)NRA (引用者注:全米ライフル協会の略称)は、合衆国憲法修正第二条で「もし政府が圧政を行うときには、国民は、銃をもってこれと戦う権利がある」と規定してあることに根拠を持つ。
(中略)C ・ヘストンは、「自分たちは、いつも銃乱射事件の度にリベラル・メディアを支配し操っている連中から、悪役に仕立てられる」と語気を強め、満場の拍手を受けている。
ヘストンにインタビューするなら、こういう主張も取り上げるべきでしょう? 全米ライフル協会は、リバータリアンの一勢力であり、リバータリアリズムとは「アメリカは、世界を支配するな。それぞれの国のことはそれぞれの国に任せよ」という反グローバリズムの思想だそうです。つまり、テロを怖れてはるばるイラクにドカドカ大量破壊兵器を落とすアメリカ白人と、全米ライフル協会は、明確に区別すべきだと思うのですね。
6 歳の男の子に、銃で殺された女の子のポートレイトを、ソッとヘストン邸に置いて諦念の表情を浮かべるムーア…という映像に、私は情報操作・イメージ操作のひとつの典型を見たゾ、と一人ごちたのでした。そして他方、まったくイメージ戦略・PR 戦略を持たない、「Politically Correctness? そんなもん知るか!」とでも言いたげな C ・ヘストンに、これまで以上のシンパシイがこみ上げて来たのでした。ヘストンがんばれ!
と、私はこの作品を見て、ヘストンならびに米ライフル協会に対するイメージがよくなり、マイケル・ムーアはちょっと厳しいヤツやなあ、と思ったのですが、寺島進兄貴は、「C ・ヘストンなんて猿の惑星へ飛んで一生奴隷やってろ! と、思わせてくれたマイケル・ム−アを尊敬する」(http://www.gaga.ne.jp/bowling/review.html)とおっしゃっているわけで、色々な見方・議論ができる作品となっております。必見の作品。かもしれません。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)