千年女優
アッと驚く面白さの快作『PERFECT BLUE』の今敏監督の新作。「架空の大女優」が生涯を回顧、自らが出演した映画と記憶が渾然となっていく、という素敵なお話。
戦国時代/幕末/戦時中/戦後/未来など異なる時代・舞台で、藤原千代子は、一目惚れした一人の反体制活動家を追いかけ続ける。先輩の年増女優は、それを邪魔し続ける。頬に傷のある男は、活動家を捕まえようと追い続ける。古い日本映画の 3 本立てを見ると、同じ俳優さんが、違う映画で似たような役を演じてて大笑いというケースがありますけど、そんな感じですねん。
して、ここで語られるのは、1940 〜 1950 年代の日本映画の思い出であります。国策映画でデビューし、約 30 年前に引退した後まったくメディアに登場しなくなった女優といえば、原節子を連想させますが、同時に、高峰秀子であり岸恵子でもあり、すなわち日本の女優の集合体なんである。千代子が探し続ける反体制活動家が、常に「顔のない男」として描かれるのも面白いですね。つまり「1940 〜 1950 年代の日本映画史」とは、女優の歴史なのであった。
女優の回想は、映画と混じり合って記憶の捏造が行われます。さらに、取材者自身も回想に闖入し、女優の記憶の捏造を手助けする。「観察対象を変化させることなしに、観察することはできない」との真理が暴き出されます。適当です。
そんなことはどうでもよくて、満州で馬賊に襲われ、ひっくり返った列車のドアをガバッと開ければ、戦国の合戦の世界に飛び込む…という具合に、鍵となる動作で時代を飛び越えていくのがバチグンにカッコいいです。編集の力が横溢する、これぞ映画。ジョージ・ロイ・ヒル監督/カート・ヴォネガット原作の超絶傑作『スローターハウス 5』みたいですね。
日本映画をリスペクトしまくるこの映画が、アニメーションで生まれたところに、日本映画の現在がある。というか、最近のディズニーのアニメーションがハリウッド黄金時代の映画の再現を目指しているように、日本のアニメーションも日本映画の黄金を受け継ごうとしておるようですね。『人狼』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』などなど。
膨大な情報量でありながら語り口は淀みなく、少々ギャグが寒いのが気になりますけど気にしません。上映時間はたったの 87 分にして、この壮大な物語。バチグンのオススメ。
☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Nov-01;