フロム・ヘル
1888 年にロンドンで起きた「切り裂きジャック事件」の真相は? ひとつの仮説を呈示したアラン・ムーアの同名グラフィックノベル(何)を、ジョニー・デップ主演で映画化。ジョニー・デップは捜査主任刑事=アバーライン警部を演じ、『スリーピー・ホロウ』の科学好きの捜査官をよりシリアスにしたような役柄ですね。
いつか人々は過去を振り返り、私が 20 世紀を誕生させたと言うであろう。
…とは、切り裂きジャックが新聞社に送った犯行声明の一節で、切り裂きジャックが産み落とした「20 世紀」とは何だったのか? を考えてみるとなかなか面白い作品になっとりますね。
切り裂きジャック事件は、一般大衆を観客に見立てる「劇場型」犯罪です。マスコミが発達してへんと「劇場型」には成り得ないわけで、まさしく 20 世紀的犯罪…ってどうでもいいですね。ご存知のように切り裂きジャック事件は未解決なのですが、主人公ジョニー・デップ警部は事件解決を諦め、愛に身を投じることも諦め、阿片窟に入り浸る。20 世紀とは「欲望が肥大した世紀」でしたが、無数の欲望を諦めた世紀でもあったのですね。…ってこれもどうでもいいか。とにかく、権力と警察の癒着、陰謀、猟奇犯罪、麻薬、加えて民族差別など、20 世紀のダークサイドはすべて 19 世紀末ロンドンにあり、って感じ。エレファントマンやロボトミー手術も登場。いやー、面白そうでしょ?
監督は黒人ブラザーズ、アレン & アルバート・ヒューズ兄弟(知らん)。アメリカを覆う 20 世紀の病はすべてイギリス(ヨーロッパ)で産み出されたものである、っちゅうアンチ・ヨーロッパのアメリカ映画であります。ってくらい、ロンドンが結構嫌な街に描かれておりまして、イギリス王室やフリーメイソンの描き方には権威・権力に対する憎悪があり、一方、娼婦の描き方は愛情溢れており、このへんはさすが黒人ブラザー監督ですね。…って図式的な見方ですが。
しかしながら、主人公ジョニー・デップは警察官なものですから、ブラザー監督としては共感を呼ぶキャラクターに描きたくないってかどうか、どうにもナヨナヨしたヤツで「こらジョニー、シャキッとせんかい!」と腹立ってきます。この辺は史実を大胆に歪め「白人どもに解決は不可能だぜ、メーン!」と、黒人探偵(もちろんウェズリー・スナイプス)が颯爽と現れ、切り裂きジャックやエリザベス女王をバッタバッタとカンフーでなぎ倒す、くらいの圧倒的なストーリー展開が欲しかった。適当。
ともかく、ロンドン・ダークサイドの雰囲気なかなかよろしく、切り裂きジャック事件のアウトラインも学べるので、(私のように)事件をよく知らない方にグーですし、被害者の一人を演じるヘザー・グラハムが泣かせる! のでオススメ。
BABA Original: 2002-Jan-29;