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 Movie Review 2002・1月23日(WED.)

千年の恋
 ひかる源氏物語

『源氏物語』とその作者・紫式部の生涯を平行して描く。一粒で二度おいしい東映創立 50 年記念にこれ以上ふさわしい映画はあろうか? という 2 時間 23 分もある超大作です。わくわくですね。

 紫式部(吉永小百合)は、藤原道長(渡辺謙)の娘の家庭教師に雇われます。道長は娘に帝の子を産ませて、権力をより強固なものにする野望を持っています。「通い婚」の当時、帝を通わせるため娘に教養をつけさせよう、「帝はおもろい話をしてくれる女性がお好みじゃ」というわけですね。紫式部は道長の娘に「おもろい話」=『源氏物語』を延々と語っていきます。

 一方道長の政敵も娘に教養をつけさせようと雇った家庭教師が清少納言(森光子)。清少納言は「春はあけぼのー、よーよー白きなりぬる山ぎわー」と、『枕草子』を語り出す! 紫式部 VS 清少納言、『源氏物語』 VS 『枕草子』、「官能小説」VS 「随筆」の壮絶なバトルが平安京を舞台に繰り広げられる! …なーんてことになれば面白いのですが、そうはならずに、延々と光源氏物語のダイジェストが語られていきます。何なんでしょうか?

 そういえば冒頭、紫式部が『源氏物語』執筆中、弟が血相を変えて現れ、「姉上、こんな帝の権威をそこなうようなものを書いてはいけませぬ!」と表現の自由を侵害し、ではいったい何故『源氏物語』は書かれなければならなかったのか? とのテーマも呈示されていたはずですが、アレはどうなったかなぁ? あ、そういえば「これは女の歯ぎしりでございます」ってなセリフもあったな。ははは。どうでもよくなってきました。

 と、いうくらいですね、CG をふんだんに使っての平安絵巻再現ぶりがもの凄い! ジャポニズム好きフランス人ならイチコロです。みうらじゅん氏も喜ばれるんじゃないでしょうか? もう、なんというか新京極の土産物屋で売ってる絵はがきというか、『カスハガの世界』というか。目も眩む名シーンの連続です。

 一例をあげると、都落ちして明石に流れた光源氏(天海祐希)。一夜たりともセックスせずにはおられない性豪なものですから早速、明石の入道の娘(細川ふみえ)に夜ばいをかけます。すると細川ふみえはじゃぶーんと海へ飛び込み、それを追って光源氏も飛び込むと、そこはお魚さんうようよの水族館の水槽。スイスイと逃げる細川、追う天海。ぶちゅーっ。うーんロマンティーック! なんだなんだ、この地方の温泉ホテルで毎晩 9 時より開催「平安美女海中源氏ショー」(何)のような光景は! どうかしてる! と私は呆然と感動したのでした。

 更にヴィジュアル・ショックは続きます。何と言っても恐るべきは松田聖子です。物語の盛り上げシーンになると、いずこともなく現れ、ある時は燃えさかる炎の中で、ある時は屋根の上で、ある時は小舟に揺られて石を投げられつつ朗々と歌い上げる! こいつ何者? …なんか「揚げ羽の君」っちゅうて、「かつては帝に仕える女房の一人であったが…。この時代の女性の悲しみを歌で表現する平安の妖精」ですって。「平安の妖精」ですって。このアヴァンギャルドさに私は猛然と知的興奮を覚えたのでした。

 長くなってしまいましたが、もうワンシーン紹介させてください。道長は紫式部の聡明さにうたれ、ついに夜ばいを決行。式部は「ひゃっ! 私なんかもういいお婆ちゃんやのに!」と夜ばいを断ると、思いを伝えんと道長は、扇子で寝室の戸を「コン、コン。コン、コン」と叩きながら、

 からころもー はなのたもとに ぬぎかへよー
  われこそはるのー ゐろはたちつれー

 と、和歌を詠む!(アレ? この歌だったかな? まあいいや) す、素晴らしい。見事に映像化された日本の古(いにしえ)の風習です。「道長さん、キミ、面白すぎ!」とツッコミを入れたのは私だけではない、と信じたい。

 あああ、ネタバレは本意ではないのですが、もうひとつだけ紹介させてください。光源氏を都落ちさせた張本人・帝は謎の眼病に苦しみます。拝み屋(陰陽師?)が「おんばかばかそわか、おんばかばかそわか、くわーーっ!!」(適当)と呪文を唱えると、帝の目からボタボタと血が滴り、着物を濡らし、それを天井に放り投げると、血痕がモゾモゾモゾモゾと動いて光源氏の姿に! ヴィジュアル・ショッーク! この CG は凄い! 私は大爆笑をしてしまい場内の大顰蹙を買ったのでした。すんませんでしたー。

 いやー、スッキリしました。おつき合いどうもありがとうございました。これぞ日本文化の特質のひとつ「たおやめぶり」を見事に描ききった作品といえるでしょう。やはり我々(誰)は「たおやめぶり」ではなく、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』の「ますらおぶり」こそ称揚せねばならぬ、卒然と私は決意を固めたのでした。金子『ゴジラ』最高!

 他にも地引き網を「わーっしょい、わーっしょい」と引く吉永小百合、都の絵師・片岡鶴太郎(題字も担当)の写生風景など名シーン満載です。脚本は『北京原人 WHO ARE YOU?』の早坂暁。ですんで『北京原人』がお好きな方にバチグンのオススメです。っていうか、究極の退屈さを味わってください。

 あ、この完全なる映画にも一つだけ欠点があり、それは、丹波哲朗が出ていないってことです。解せん。

BABA Original: 2002-Jan-23;

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