仄暗い
水の底から
ホラーは全然平気なこの私でさえ苦手というか「こここりゃたまらん!」思いをしたのが 2 本ありましてな、ひとつは『震える舌』(1980 ・野村芳太郎監督)。これは恐い! そしてもう一本が中田秀夫監督の『女優霊』(1996)。ビデオで見たんですけどうなされました。うーんうーん。その中田監督が秀作『リング』と同じ原作者鈴木光司の短編小説を映画化しました。雨漏りしがちな老朽マンション、黄色い合羽の子供、もうね、たまらん感じですね。
さてホラーというものは、まずもってスタイリッシュでなければならない。どががーんと大きい音を立ててみたり、ぐわわーんとドアップにしたり、スローモーションにしてみたり、など一瞬でもダサい演出が紛れ込むと恐怖はたちまち消え失せてしまいます。抑制こそホラーの命。その点、中田監督、素晴らしいです。何だかよくわからない動き・映像を退屈の一歩手前まで引き延ばし緊張感をジワーッと高めます。今回は史上 No. 1 スタイリッシュ・ホラー『シャイニング』を参考にしまくっていて音楽もそれ風。もう、イカしたシーン続出。貯水槽のハシゴを登る黒木瞳、水が滴るマンションの一室など「こ、これはカッコいい!」と、私は呆然と感動したのでした。
そんなことより懐疑主義者たらんとす私は、怪異が霊魂・超能力の実在を前提にした場合、それだけで「アホらし」となってしまうのですが、この作品の場合、怪異を目撃するのは記憶を捏造しがちな子供、情緒不安定のシングルマザーで、ほとんどは幻聴・幻視で説明可能なところが恐いんですわ。自分にも災難が降りかかる可能性がある、と言うか。
ま、そんなことはどうでもよく、バチグンなんですが不満がないわけではない。主人公・黒木瞳は、子供の親権をめぐって離婚調停中のシングルマザーで、この映画における怪異とは、母親一般が抱く不安の映像化です。映画の結論は、「シングルマザーは欠陥住宅に入居したりするので子供を育てるのは無理!」「母親は無くとも子は育つ」という感じ、結局「敗北者の映画」なのでは? たとえば溝口健二の描いた母親の強さと比べて、弱過ぎるのですね。頑張り尽くしていない、というか。どうでしょうか。
そんなこともどうでもよく、恐いのは恐いんですが、子を思う母の気持ち、母を思う子の気持ちに泣ける! ホラーで泣かされるとは! いや最近泣いてばっかりですね。いい大人が。ともかく恐怖もまた娯楽、最良のエンターテインメント作です。バチグンのオススメ。あ、恐いのが苦手な方は心づもりよろしく。私も椅子から 30 センチ跳び上がりました。
BABA Original: 2002-Jan-22;