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Movie Review 9月19日(WED.)

グリーン
 フィンガーズ

 10 代の頃より 15 年間刑務所で暮らした主人公コリン。せっかく出所したのに「オレはいつもバカなことをするんだ」とつぶやきながら花屋のウィンドウを叩き割って侵入し、手際よく作ったのは黄色いバラの花束。これをカゴに入れて自転車で猛然と逃走。パトカーの追跡を振り切ってとある屋敷の玄関に花束を届けた後、悠然と刑務所に逆戻り。「はて、この男は何故かかる不可解な行動に及んだのか」と観客の興味を鷲掴みにして、物語は過去へとさかのぼります。

 イギリス貧乏人諸君が主人公、謎を呈示するオープニング、しかも疾走する自転車、ああ、私が見たかった映画とはこれなり、と冒頭から呆然と感動し、一気に眠気がふっとんだのでした。あ、実は寝不足で寝る気満々だったのです。あ、自転車が出てくるのは最初だけです。

 主人公コリンたちは囚人更正プログラムとして「ガーデニング」に取り組まされます。最初はブー垂れていたのですが、ずぶの素人たちはずぶずぶとのめり込み、「ここらで、ひと花、咲かそうぜ!!」とガーデニング界の権威――“ハンプトン・コート・パレス・フラワーショウ”に挑戦するのですが…というお話し。ちなみに題名“greenfinger”とは「園芸の才能の持ち主」のことだそうで。

 社会の「落ちこぼれ」たちが何事かに取り組んで誇りを取り戻すというパターンは、『フル・モンティ』『ブラス』など、イギリス映画のある種の傾向を思わせますが、監督・脚本のジョエル・ハーシュマンはアメリカ人。そのためかケン・ローチ的――誇りの有無に関係なくノー・フューチャーなイギリスの厳しい現実は描かれず、「開放的な刑務所」のリベラルさ具合などはニューディール時代フランク・キャプラの香り。イギリスを舞台にしたアメリカン・ドリームなんですね。何? あなた、フランク・キャプラ知らないあるか? 『スミス都へ行く』(1938)『素晴らしき哉、人生!』(1946)の監督でして、面白いですぞ。ぜひ。

 余談はともかく、『グリーンフィンガーズ』上映時間は 91 分。頑なに他者との関わりを拒み続ける主人公コリンが、たまたま同房となったジイ様(『ウェイクアップ! ネッド』のデビッド・ケリー)の暖かいまなざしの下、花を育てることで少しずつ少しずつ心を開く過程がキメ細かく、テンポ良く描かれます。人間の尊厳はどのように回復されていくか? という黒澤明『赤ひげ』的なズッシリと重くてたまらんテーマを、ユーモアを全編に散りばめて描いた監督・脚本ジョエル・ハーシュマンは「なかなかにやる奴」、と私は脳裏にしっかりと刻み込んだのでした。「囚人とガーデニング」という組み合わせで面白い映画が作れなければ、よっぽどの凡暗なんですけどね。

 例えば、キッスシーンのバックにどかんどかんと花火が上がる、など陳腐に陥る危うさをはらみつつ、しっかりと映画的記憶を駆使する気概や良し、しかし女王陛下の権威を持ち出してくるのはどうか? 次回作はディズニーで製作するって大丈夫か? と一抹の不安を感じつつ、「ウェルメイドな映画を見た!」という満足感に包まれつつ、みなみ会館での上映は終わってしまいましたが、バチグンのオススメです。隠れた傑作。

BABA Original: 2001-Sep-19;

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