暗号解読
ロゼッタ・ストーンから
量子暗号まで
『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』でも、素人には判りにくい「数学」の話題をバチグンのオモチロ読み物に仕立てたサイモン・シンがまたやってくれました。今回のテーマは「暗号」。
暗号とは、破ったことが知られてしまうと、その暗号は使われなくなってしまってさらに強力な暗号の登場を促す、というわけで、各国の諜報機関は開発した解読テクニックひたすら秘密にし続けるわけでして、ごく最近情報公開されるまで一部の人間しか知ることが出来なかったアッと驚き桃の木 20 世紀なエピソードが満載です。
例えば『U-571』という映画は、当時難攻不落のドイツ軍暗号機「エニグマ」を奪取せんとするアメリカ海軍の奮励努力を描いた快作でしたが、そもそも「エニグマ」とはなんぞや? とか、実は映画と似たアイデアの作戦が「007」の原作者イアン・フレミングによって立案されていた…とか。
世界最初のコンピュータは「エニアック」であると一般に喧伝されていますが、暗号解読のために密かに建造され、機密保持のため人知れず破壊されたコンピュータがあった…とか。
第二次大戦時、アメリカ海兵隊が採用した解読不可能の恐るべき暗号とは? …とかとか。面白そうでしょ?
日本でも盗聴法が制定されたり、エシュロン・システムがあらゆるメールを盗聴、チェックしてるんだぜ、など、今日「如何に個人の通信の秘密を守るか?」がホットな話題なのでして、で、この『暗号解読』は、最新テクノロジーまで、赤子の手をひねるがごとく分かり易く解説しているのみならず、暗号作成者、暗号解読者たちの熱くスーパークールな物語が展開、大河ドラマを読むがごとき面白さなのであります。
ところで、インターネットでクレジットカードの番号送信時、一般に使われる SSL 技術の説明で、
「公開鍵暗号(RSA)と秘密鍵暗号を併用しています。公開鍵暗号を使った暗号化・復号には時間がかかるので、より高速な秘密鍵暗号の鍵(key)を公開鍵暗号で渡すようにしています」(
http://www.rakuten.co.jp/ssl.html)
…なーんて説明を読んで判ったような判らないような気になって、って判った気になってるからインターネットで買い物をしているんですけど、ふと、暗号の鍵を公開しているのになぜ安全と言えるのだい、お前さん? と疑問がわいてきませんか? この『暗号解読』では、「公開鍵方式」を開発者の試行錯誤の過程から解き明かして、「なるほど! アリスとボブは鍵を公開してもイブ(誰?)は手も足も出ないわけだ! はははは!」と、今まで以上に安心してネット・ショッピングを楽しめることウケアイです。
翻訳も読みやすくて最高! なんですがただ一つ残念な点は、原書出版より 2 年たっての日本語版出版で、原書の付録:暗号の歴史に即した 10 ステージからなる暗号を最初に解いて 1 万ポンドをゲットしよう! …が終わっちゃってることです。うーむ。
その他、意図せぬ過去からの暗号…ヒエログリフなどの古代文字解読のドラマもやたらと感動的にてオススメ。ぜひ貴方も、秋の夜長、ロマンとミステリーに満ちた暗号の世界に遊んでみては? なんちて。
BABA Original: 2001-Sep-09;