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Movie Review 10月12日(FRI.)

ゴーストワールド

ハピネス』の宣伝イラストを書いてたダニエル・クロウズのオルタナティブ・コミック(何?)を、『クラム(1994)のテリー・ツワイゴフ監督が映画化しました。原作者が脚本も担当。

『クラム』は、キチガイすれすれというか、キチガイそのものの漫画家ロバート・クラムのヘヴィな人生の傑作ドキュメントでしたが、この『ゴーストワールド』の一見ガーリーな(笑ひ)、ポップというかキッチュというかキャンプな画面に漂うクールさ、死の匂ひ、諦念の感覚は『クラム』と同じものです。

 主人公イーニド(『ダンジョン & ドラゴン』のソーラ・バーチ)にとって、世界は耐えがたく悪趣味で、そんな世界に不満を抱かずそれどころか楽しんでさえいるヤツらは、とんでもない阿呆、コミュニケーション不可能の「幽霊」みたいなものです。

 そんな感覚を共有できる唯一人の友人レベッカ(ユマ・サーマン似のスカーレット・ヨハンスン)とともに町に繰り出し、全然イケてなさ過ぎてイケているけど、もうイケているかイケていないのか全然わからない物や人を眺めつつからかったり、イケてなさ過ぎて超イケてるけどやっぱりイケてないかもしれない中年男シーモア(スティーヴ・ブシェミ)と知り合ったり、というイーニドの高校卒業後のモラトリアムの日々を描きます。

 まずもってイーニド %7E レベッカのラジカルなまでの意地悪さに私は呆然と感動しつつ、とにかく「イケて無さ過ぎてイケている」事物を求めるセンスが素晴らしいです。世間一般に「趣味がいい」「カッコいい」と喜ばれる物ほどくだらない物はなく、彼女たちは「普通の」人は全く気が付かないか、気が付いても見ないフリをするものを「イケてる」物(者)と見なします。このイケてない物(者)の素晴らしさ・美しさを知っているのは自分だけだという彼女たちの優越感を、若者にありがちな「世界の狭さ」と見る向きもあるでしょう。しかし、世界にくだらない物が溢れ、次から次へと消費されていくからには、簡単には消費不可能な悪趣味ギリギリの良い趣味を無理矢理にでも発見していかねばならない――これは、腐りきった資本主義の下で許される最後のクリエイティブな態度なのです。適当。これを「若気の至り」「私も若い時はこうだったナー」などと申す方は、最早、「あちら側」の人間なのでございます。

「今日はパンクな気分なのよ」と決してパンク心を忘れぬイーニドは、レベッカのごとく適当に世間と折り合いをつけるのは不可能、世界を変えたくとも「世界を変えるなら大企業に入って内側から変えなきゃ」と言われる始末、そんな彼女はもはやアーチストになるしかないのですが、アートも偽善にまみれており、一体どうすれば良いと言うか。

 映画のラストで、イーニドは来るはずの無いバスに乗って「ここではない何処か」へと旅立ちます。さてイーニドは都会へと旅だってコミックアーチストになるのでしょうか。それとも「来るはずのないバス」は決して来ないし、決して来ないバスに乗るとはすなわち「死ぬこと」、と見るか。自分以外が「幽霊」だったのに、自分こそが「幽霊」だったのでは? さて。

 ブルースのレコード・コレクターに扮するスティーヴ・ブシェミもバチグンの好演、『セシル・B』を見て以来どんな映画を見ても「ヌルいナー」とお嘆きの貴兄に超オススメの端麗辛口です。しかしこれを見てしまうとまた、何を見ても「ヌルい、ヌルい、ヌルい!」と嘆くことになると思うのですがー。パニッシュ・ヌルいシネマ!

BABA Original: 2001-Jan-12;

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