ギター弾きの恋
1930 年代に活躍したジャズ・ギタリスト、エメット・レイの恋物語を中心にした半生をウディ・アレンが映画化、W ・アレンや著名ジャズ・ミュージシャン、ジャズ評論家などの証言がエピソードの合間に挿入される、…のですが、どうやらエメット・レイとは何人かのミュージシャンを元に創られた架空の人物のようです。ふーん。
とにかくショーン・ペン演じるエメット・レイの人物像が秀逸です。憧れのギタリスト=ジャンゴ・ラインハルトに出会うとたちまち緊張のあまり気絶してしまうほど、音楽に対して誠実でありながら、私生活では圧倒的なエゴイストぶりを発揮します。口がきけない洗濯女をひっかけ、内縁生活を送りますが「芸のためなら女房も泣かす」を地でいく浮気・放蕩に明け暮れます。しかし、一旦ギターを弾き出すや、見事な旋律を奏でるわけで、「芸術家」「アーティスト」のひとつの典型が描かれます。「無頼派」ってヤツですか?
で、芸術にはひたむき、しかし(一見)女性には不誠実、という芸術家像はそのままウディ・アレンにピタリとあてはまります。ご存知のようにアレンは女優ダイアン・キートンと同棲したり、ミア・ファロウと結婚して養子を取ったり、今度はなんとその養子と結婚したり…と、なんだかよくわからない、おいしい生活を送る一方で精力的に映画を作り続け、それなりの支持を得ております。この『ギター弾きの恋』は「無頼派芸術家」W ・アレンの自己弁護の作品なんですね。気絶するほどの憧れの的は? イングマル・ベルイマンか、フェデリコ・フェリーニといったところでしょうか。
W ・アレンといえば、かつてはコンプレックスを「もう、ええっちゅうねん!」というくらい作品でさらけ出すオレ様映画監督でしたが、近年は古典的ともいえるウェルメイドな映画作りに励んでおられるようです。しかし、よく見ると、やっぱりオレ様映画だったりするのですね。
とはいえ、見事にギターを弾きこなす(音は吹き替えですが)ショーン・ペン、口がきけない役のサマンサ・モートンが堂々たる名演であり、「架空のミュージシャンのニセ・ドキュメンタリー」という仕掛けがとてつもなく小賢しく見えてきます。ラストも少々フェリーニに対するコンプレックスが剥き出しになってどうか? などと思うのですが、一皮むけた味わいある逸品です。
中国から『紅夢』『始皇帝暗殺』などの名撮影監督、チャオ・フェイが参加、なんとも言えない微妙な色合いが最高です。全編に流れるジャズ・ナンバーもすこぶるゴキゲン(アホかオレは)、ジャズ好き、W ・アレン好きはもちろん、苦手な方にもオススメです。
BABA Original: 2001-May-18;
|