アメリカン・サイコ
80 年代アメリカ文学を代表しているらしい問題作を、『アンディ・ウォーホルを撃った女』のメアリー・ハロン監督が映画化。主役のパトリック・ベイトマンを演じるのは、『太陽の帝国』(1987 /スティーヴン・スピルバーグ監督)のジム少年ことクリスチャン・ベールです。すっかり好青年に成長してご両親もお慶びのことでしょう。
そんなことはどうでもよくて、映画は、80 年代アメリカ成金どものドはずれて阿呆なライフスタイルを徹底的に笑い飛ばしております。主人公は大企業社長の息子にて副社長、どのように趣味良く散財できるか? に命をかけております。ヤッピー、ヤンエグ(ヤング・エグゼクティヴ)ってんですか? ハイテックかつミニマルな内装の高級マンションに住み、シェイプアップとお肌のケアーに励み、最新トレンドの人気レストランの予約取りに必死です。ヤンエグたちの名刺自慢シーンなど抱腹絶倒。
彼らがカッコをつければつけるほどに大笑いなのですが、主人公は、外見を隙なく固めようとも中身の無さは如何ともし難く、やがて殺人にのみ歓びを感じるようになっていきます。ここで一句。おかしゅうて やがて悲しき バカ成金。
高度資本主義にありがちですが、情報を丸呑みにする阿呆の悲しみです。21 世紀日本においても未だに散見されるものです。「やっぱり電気製品はイタリア製がいいよね」「やっぱりミッドセンチュリーの椅子だよね」「イタリアのロードレーサーのフレームはやっぱり塗装が素晴らしい!」などと、「BRUTUS CASA」「Pen」「Bicycle Club」などの雑誌を鵜呑みにし、自らの居住空間や外見を如何に「趣味良く」見せるかに頭を悩ませる方もおられるかと存じます。いや、別にいいんですけどね。
しかし人間の高級さというものは、「まず外見から」という説もありますが、持ち物や見かけで決まるものではないのです。武道や書道、茶道を身につけ、和歌などたしなむ教養が不可欠であり、伝統に対する敬意が無ければ自制心も生まれず、徒に欲望をつのらせて気がついたら人殺し、ではアカンのです。
この作品は、笑かすだけ笑かしといて「みんな殺しちゃってもう、大変!」って結末で何の展望も指し示しません。その点、「殴り合いで生の実感を得ようぜ!」と消費社会とのつき合い方にひとつの回答を与えていた『ファイト・クラブ』よりも思想的には後退しているといえましょう。原作自体が今となってはもう古い、ということなんですけど。
何はともあれ金持ちどもを気持ちよく嘲笑できる作品にて、貧乏人の皆さんにオススメです。ヒューイ・ルイス & ザ・ニュースなどの 80 年代ポップスも全編に流れ、すこぶるゴキゲン、ちなみに音楽監督はジョン・ケールです。お見逃しなく…って朝日シネマでの上映は終わってしまいましたね。失礼しました。
BABA Original: 2001-May-20;
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