マレーナ
ムッソリーニ政権下のシチリアが舞台。マレーナは村イチバンの別嬪さんですが、旦那はお国のために出征中。村人達は、「あの尻じゃ独り寝は辛かろうて、グヒヒ」と下卑た噂話に花を咲かせております。マレーナが腰を振り振り散歩するのを、亭主連中鼻の下を長くして眺め、女房達はマレーナに憎悪を抱く、と。
そんな折り、半ズボンが恥ずかしい年頃の主人公=レナート少年は、自転車を買ってもらって大喜び、早速、自転車を駆使して憧れのマレーナにストーカー行為を開始します。後をつけ回す、家を覗く、下着を盗むと、どんどんエスカレート。最早マレーナは彼にとっての絶対神となり、マレーナの悪口言うヤツぁ許さねぇべ! と、陰口オッサンの商店のウィンドウに石を投げ込み、自転車で猛スプリントの逃げを決める! イタリアはサイクル・スポーツが盛んな国と聞き及びますが、このような風土が自転車文化を育んでいるのだナーと、私は呆然と感動したのでした。
そんな話はどうでもよくて、マレーナはその圧倒的な美しさ故に孤独を深め、ナチの高級娼婦に身をやつします。そして終戦。これまで消極的にせよファシスト政権を支持していた村人たちは、あたかも昔からの抵抗者であったかのごとく、ファシスト積極協力者に対する魔女狩りを開始、マレーナに殴る蹴る、髪の毛をジョキジョキと刈るなどの暴行を加えます。
おお、これはまるで『清作の妻』の若尾文子状態。そう、この映画は、体制に迎合する村落共同体を批判しているのだ! ただの「少年の日の甘くてイカ臭い思い出映画」が政治性を帯びた瞬間です。美とは、形質の美しさにおいて美、なのではなく、迎合せず屹立しているからこそ美なのですね。ふーん。ここで一句。田舎には 決して住めない 美人かな。
監督は『ニューシネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』などでも覗き見チンピク演出に圧倒的な冴えを見せたジュゼッペ・トルナトーレです。『ニューシネマ〜』では村落共同体からの脱出と回帰を描き、『海の上の〜』では船という共同体から一歩も出ず、『みんな元気』では……中身忘れた。今回も、主人公は村落共同体意識から脱出する機会を得ながら、ムラ社会に留まり続けます。ムラ社会を批判しつつそれもまた良し、というところでしょうか。
アンニュイな宣伝イメージに反してイタリア映画らしく猥雑な笑いもタップリ、上映時間も 92 分と短めなのでオススメです。セシル・B ・ディメンテッド的には「マレーナの凄惨な虐められっぷりが素晴らしい! ゴー! ゴー!」…って感じでしょうか。
BABA Original: 2001-Jun-29;