ゲンと不動明王
みなみ会館『円谷英二生誕 100 年記念 東宝特撮映画大会 2001』の一本。1961 年東宝作品。山間の寺の息子ゲンは、母は亡くとも妹のイズミとともに楽しく暮らすも、父・住職(千秋実)、男手一つで育ち盛り二人を育てるのはなかなかに大変、村人と相談の末、後妻(乙羽信子)を迎えることに。
しかし乙羽信子は過去に男の子を死なせたことがあって「思い出すので辛い」、というわけで、ゲンは本寺の和尚(笠智衆)の紹介で、山を越えた町の乾物屋の下男として引き取られることになります。あれ、まあ。
寺の家族の問題を村人が寄り集まって相談するという、現代では消滅しているかもしれぬ農村共同体が確かに存在しております。家族とは地域共同体に支えられるもので、家族の崩壊とは地域共同体の喪失がもたらした事態なのですね。適当。
そんなことはどうでもよくて、まずもって現代では失われつつある農村のモノクロ風景が美しいのですが、砂利道をバスがゴトゴト走る様はまさに『となりのトトロ』の原風景。『となりのトトロ』では、ストレスにさらされた姉妹にトトロという謎の生物が癒しにやってきましたが、不遇のゲンの前に現れたのは…不動明王、というか、世界のミフネだった!
世界のミフネは言います。「ゲン! ワシがお前を鍛え直してやる! ゲン! ワシが好きか?」
ゲン、答えて「好きだ! だって強そうだから!」
世界のミフネにとってこの『ゲンと不動明王』は、キャリアの頂点とも言える『用心棒』と『椿三十郎』にちょうど挟まれた作品であり、半裸のミフネ、メチャクチャ強そう! というか、危ない人の雰囲気が漂います。円谷英二の特撮により、身の丈 50 センチの不動明王像がニョッ、ニョッ、ニョー! と巨大化、ミフネ不動が現れた瞬間、私は腰を抜かしつつ、不動明王を演じさせたらこれ以上の適役があろうか?(いや、無い)と呆然と感動したのでした。
挫けそうなゲンを伴って、トトロ同様ミフネ不動も夜の空を飛翔します。ミフネ不動は眼下の出前持ちを指差し言います。「あの子は両親がいないが、頑張っているのだ!」、病院のベッドを指差し「あの子の家は金持ちだが、不治の病に犯されているのだ。それでも頑張っているのだ!」、とある花売り少女を指差し、「あの子は日本一貧乏だ!!!」……ガガーン。いくらミフネ不動でもその決め付けはいかがなものか? と憤慨しつつも「上見て暮らすな下見て暮らせ」との農村的処世術をゲンに叩き込まんとするミフネ不動の真心に、私は呆然と涙していたのでした。
この映画こそ『となりのトトロ』のオリジンだったのだ、というより宮口しづゑの原作童話は結構有名みたいですので、この辺(どこ)の童話が宮崎駿の創造の源泉なのでしょう。しかし、戦前〜 60 年代テレヴィ台頭以前の、黄金の日本映画伝説(『ゲンと不動明王』含む)を、宮崎駿がアニメーションの形で伝承しているのは確か、なのです。
監督は『手をつなぐ子等』『忘れられた子等』などでも子供の演出にバチグンのうまさを見せた稲垣浩。機会があればぜひ、のオススメです。
BABA Original: 2001-Aug-26;