彼女を見れば
わかること
監督のロドリゴ・ガルシアは、ノーベル賞作家ガルシア=マルケスの息子だそうですがそんなことはどうでもよくて、撮影監督をしながらコツコツと書いた脚本が「これはいい!」と評判呼んでグレン・クロース、キャメロン・ディアス、ホリー・ハンター、キャリスタ・フロックハート(『アリー My Love』)と、低予算ながら著名女優大挙出演、5 話からなるオムニバスはさながら短編小説集であり、各話で登場人物が少しずつ重なり合うのはロバート・アルトマン監督『ショート・カッツ』風かつお話しの中身もレイモンド・カーヴァー的アメリカン・ショートストーリーです。
ロサンゼルス近郊が舞台。ボケた母親を介護する女医、銀行の女性支店長、シングルマザー、病気のレズ恋人と暮らすタロット占い師、盲目の妹と女性刑事の姉などが各話の主人公で、それぞれに共通するのは「孤独」であること。例えば女性支店長はバリバリキャリアを積んでそれなりの収入もあり不倫もしたり、とシングルライフを満喫しているのですが、たまさかホームレスの女性と会話している瞬間、「自分はこのホームレスと同様、いやそれ以上に孤独な存在であること」に卒然と気がついてしまいます。自分の生き方に懐疑の念を抱いてしまう。一度かかった孤独という病は、そう簡単には治せない…というお話しだったり。
さて資本主義の発達は、女性も労働力市場に一個の労働力として登場することを求め、女性が経済的に自立しやすくなって地位も向上、家庭内では男性に隷属する存在ではもはやあり得ず、逆に父性は力を失って「家族」とは簡単に崩壊してしまう存在となっております。近年のアメリカ映画のテーマは、家族の崩壊そして再生、または家族に代わる共同体の創出でした。例えば『マグノリア』や『ショート・カッツ』では孤独な白人が多数登場、天変地異的出来事を体験することによって共同体感覚を取り戻さんとするお話しではなかったでしょうか。知らん。
『彼女を見ればわかること』は、それらより認識が一歩前進しております。例えばこの映画のシングルマザーの場合、仲のいい息子がいて母子という共同体を形成しているのですが、息子が女の子と寝た経験をあっさりと告白した瞬間、母親は懐疑を抱きます。「息子の悪びれない態度はどうしたことか? まるで赤の他人に告白しているようではないか?」というわけですね。そこから母親の新たな行動が始まります。
例え何らかの共同体の一員であったとしても人間がまず孤独な存在であることを受け止めよ、共同体に属することは孤独を解消するものではない、現状を肯定するだけでは、どんどん孤独の深みに陥るばかりである、共同体をまず否定し新たな共同体を創出するために行動すること、その過程こそが重要なのだ、天変地異は必要ないのだ、と、この『彼女を見ればわかること』はソフトに語りかけているのです。適当。
ともかく、女優の表情をとらえる視点はスーパークールなのですが、見終わった後にはホンワカとあったかいものが残る嘘くさくないハートウォーミングにて、朝日シネマでの上映は終わっちゃいましたがオススメです。って、今頃勧められても、って感じですか?
BABA Original: 2001-Aug-24;