チキン・ラン
『ウォレスとグルミット』シリーズのアードマン・アニメーションズが、私の大嫌いなドリームワークスと組んで作った長編アニメーション映画です。養鶏場のニワトリたちがあの手この手の脱出作戦を練るというお話。独房(?)に入れられた主人公ジンジャーが壁に向かってキャッチボールしたり、ストーブの下にトンネルを掘ったり、は名作中の名作『大脱走』への、そして主人公たちの鶏舎が「第 17 号棟」なのはビリー・ワイルダーの名作『第 17 捕虜収容所』への目配せだったり、…なーんて映画ファンが喜ぶ話はどうでもいいですね。字幕版はメル・ギブソンが声の出演だったりします。
アードマンの粘土アニメとしては空前のスケールで、群舞シーンの舞台裏など想像するとその苦労たるや大変なものであろうなぁ、と涙を禁じ得ませんが、イマイチおもしろくないのですね。抜群の名作『ペンギンに気をつけろ』よりだいぶん劣るし、『チーズ・ホリデイ』に横溢していた不思議な風味(チーズ味?)が失われております。脚本は練りに練られ演出も安定したものなのですが、ひょっとしたら実物のメル・ギブソンに着ぐるみを着せて、実写で撮った方がよっぽどおもしろいのでは? と思ってしまったわけです。
考えてみれば「粘土アニメの大作」というのが、どうもイケナイと思うのです。粘土アニメにはそれ固有のおもしろさがありますが、そもそも人見知り/引きこもりがちで凝り性な方々が、生身の人間を演出するのはちょっと…、でも映画は撮りたいし…、おお、粘土アニメならボクちゃんの好きなように演出できるぞ! どんなスペクタクルも思いのままだ! というようなところが粘土アニメの魂(ソウル)ではないでしょうか。資金は少ないけれど時間だけはたっぷりある! 莫大な労力、様々な制約を乗り越える頓知こそが粘土アニメを輝かせるのですね。ドリームワークスなんちゅう大企業と組むとは、粘土アニメにとっては不幸な事態でしょう。
それと、チキンパイ製造器、手作り飛行機の飛翔シーンなど、宮崎駿の影響が見え隠れしております。別に真似してもいいのですが、面白さという点では圧倒的に宮崎駿の勝ちなんですね。もう一工夫欲しいところです。
とはいえ、メル・ギブソンは声だけでもいい! 「フリーーダーム!!」の雄叫びが最高です。約 90 分と上映時間も短め、イギリス人とアメリカ人の気質の違いによるギャグなどもあってそつなくまとめられておりますので、オススメです。
BABA Original: 2001-Apr-20;
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