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Movie Review 4月18日(WED.)

スターリングラード

「ターニャ、キミのためにボクは今日もナチを撃つ!」…ジュード・ロウ好きの女性客を(男性客も?)狙ってか、メロドラマチックな売り方ですが、男と男がガップリ闘うバリバリの戦争映画でした。ちなみに J・ロウはターニャのためにはナチを撃ちません。

 第二次大戦屈指の激戦地、ソ連軍 VS ドイツ軍が一進一退を繰り広げるスターリングラード。祖父に射撃の薫陶を受けた羊飼いジュード・ロウは、ワケもわからぬ内に最前線へと送り込まれます。ソ連軍は物資不足につきライフルも 2 人に 1 挺しかないという体たらくで、ドイツ軍めがけて突進しますがバタリバタリと死人の山。二等兵とは消耗品なのであります。『プライベート・ライアン』風であります。

 政治局員ジョセフ・ファインズは、偶然 J ・ロウの圧倒的な射撃の腕前を目撃。野心家たる彼はプロパガンダを駆使して J ・ロウをスターリングラードの英雄に祭り上げます。

 ナチス側にしてみれば、音もなく忍び寄る狙撃兵は恐怖以外の何者でもなく、志気が削がれることはなはだし、と、ドイツから J ・ロウを倒すための刺客が送り込まれます。ドイツ狙撃手養成学校の教官にて少佐、軍人を演じさせたら世界一のエド・ハリスだ! 羊飼いの息子ジュード・ロウ VS クリミヤ貴族の末裔エド・ハリス、二人の狙撃プロフェッショナルの静かな闘いがいま始まる! …なかなかおもしろそうでしょ?

 プロ同士の駆け引き、罠の掛け合い、裏のかきあいが圧倒的なおもしろさで、私は戦争映画こそ最高の娯楽映画なのだと深い感動に包まれたのでした。戦争ゲームのおもしろさを横溢させた最近の作品では『U-571』もありましたが、よりストイックに瓦礫の中で密かに進行する闘いはまた違った面白さです。

 戦争映画が面白いとは、そもそも戦争が面白いからに他なりません。戦争の本質は「殺して分捕る」ことにあり、面白いに決まっている! しかし戦争の面白さを単純に映画にしたのでは「好戦映画」の誹りを免れません。世間のトレンドはやはり「反戦」なのでつい戦争は詰まらないものとして描かれがちなのですが、それは事実の歪曲だと思うのですね。…って、戦争経験の無い者の戯言ですが。

 戦争の面白さは認めつつ、反戦主張をどう盛り込んでいくかに工夫が必要なのでしょう。『プライベート・ライアン』『シン・レッド・ライン』は、その辺の整理が不充分であり、『U-571』『スターシップ・トルーパーズ』『フルメタル・ジャケット』は成功していると思うのです。そしてこの『スターリングラード』も「戦争とはなんと面白いのだ」と感動しつつ「やっぱり戦争って阿呆がやることだなぁ」と、しみじみ反戦気分を満喫できる作品となっております。

 監督・脚本・製作はジャン・ジャック・アノー。『薔薇の名前』でも巨大な原作を見事なエンターテインメント作品に仕上げましたが、今回も、脚本の巧さが光ります。エド・ハリスのナチ将校が随分と格好良く描かれるのですが、それではチョと不味いと見るや、ナチのとんでもない非情さも盛り込むというバランス感覚が良いですね。

 一方、プロパガンダで作られた虚像との矛盾に悩むジュード・ロウ、「万人が平等な無階級社会」の理想を求めて挫折していく政治局員ジョセフ・ファインズ、二人が思いを寄せるのはドイツ文学をたしなむインテリ、しかし最前線での戦闘を望む公明正大な精神の持ち主レイチェル・ワイズ(もうすぐ『ハムナプトラ 2』公開!)、による三角関係も、本題である独ソ狙撃手対決と見事に絡み合います。ハラショー。

 ドイツとソビエトの戦争をフランス人が監督、出演者はアメリカ & イギリス、みんな英語をしゃべるという珍作ぶりではありますが、ふにゃけたメロドラマでは断じて、無い! ということで超オススメです。

BABA Original: 2001-Apr-18;

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