ブエナ・ビスタ
・ソシアル・クラブ
ヴィム・ヴェンダース監督最新作。『パリ・テキサス』『エンド・オブ・バイオレンス』などで組んだライ・クーダーがキューバの老ミュージシャンと制作した同名のアルバムをフィーチャー、コンサートやキューバでのレコーディング風景などで構成したドキュメンタリー(のようなもの)。
キューバに関する映画としておもしろかったが、見た人みんなに「良かった良かった」と言われると「そんなに良かったか?」と疑問がムクムクと湧いてくる。これをわからないヤツは、ダメ、みたいな。同じヴェンダースでも『リスボン物語』『エンド・オブ・バイオレンス』の方がズッとおもしろかったやい、と思う。
ヴェンダースはベルリンの壁健在の頃には『パリ・テキサス』『ベルリン天使の詩』など「壁を隔てた二つの世界」をテーマにしてきたが、今回、社会主義国と資本主義国のミュージシャンの共演を取り上げ、二つの世界を再び対比して見せる。キューバのジジイがカーネギー・ホールを音楽によって制圧し、国旗を掲げるのは痛快である。
しかし、コンサートシーンがつまらないのである。偏見かも知れないが、ラテン音楽にはそれにふさわしい演奏の場があると思う。コンサートホールで座って聞く、というのは全然違うと思うのだ。やはり、搾取されまくりの肉体労働者がひとときのウップン晴らしを求めてクラブに集い、狂熱に身をまかせるラテンダンスと一体のものとして演奏されるのが望ましいだろう。アメリカでのコンサートの客層がどんなものかは描かれていないけれど、ヤッピー臭さを感じたのはボクだけだろうか。演奏はカッコいいんだけど、ひっかかる。
コンサートシーンよりも、挿入されるジジイの日常が良い。ここをもっと見せて欲しいところだ。メンバーのジジイがニューヨークを観光するシーンが最高! で、どこから見てもただの田舎もんジジイなんだが、一旦音楽を奏で出すとメチャクチャカッコ良い。ミュージシャンってのはモテるもの、と相場が決まっているが、このギャップはスゴイ。
また、キューバの風景が圧倒的に素晴らしい。例えばゴージャスな宮殿で少年少女が体操やフェンシングの練習をしているシーンだ。カストロは、ソビエト崩壊について「そんなもん関係ない。キューバはキューバの道を行く」とのたまったらしいが、色々困難はありつつも階級のない社会を追求し続ける社会主義国ならではの光景だろう。
撮影は、『ゴースト・ドッグ』などジャームッシュとコンビを組むことが多かったロビー・ミューラー。ヴェンダースのカメラを担当するのは久々。今回は、演奏者の集中力を削がないようにとの配慮か、機動力に優れる SONY デジタル・ベータカムによるヴィデオ撮影である。ところどころ走査線が目立つが、ロビー・ミューラー特有の色調は、見事に出ている。
ちょっと文句をつけてみたけど、労働者階級諸君には絶対のオススメだ。
BABA Original: 2000-Mar-19;