フェルマーの最終定理
ピュタゴラスに始まり、
ワイルズが証明するまで
サイモン・シン著 青木薫訳/新潮社
「一般の」読者に向けて、数学屈指の難問である「フェルマーの最終定理」がどのように成立し、幾多の数学者が挑戦し、破れ、1994 年にアンドリュー・ワイルズがいかに証明したか、を描く。
みなさんは数学が好きですか? ボクは「数学ファン」みたいなもので、一般の人向けに書かれた数学の本を読むのが好きです。単純に、頭がよくなった気分になれるのが効用である。
数学者が常に強調するのは、数学は、「美」が貫かれ、エレガントでなければならない、ということだ。本書においても数学者のクリエイティビティの描写に重点が置かれている。数学のクリエイティビティに比べれば、デザイナーやイラストレーターが口にしがちな「クリエイティブ」なんて、チンカスみたいなものだと思ったりして。失礼。
フェルマーの最終定理とは何か? xn+ yn= znなる方程式で、n が 3 以上のときは整数解をもたない、というものだ。17 世紀の数学者フェルマーは、読んでいた本の余白に「わしは、これを証明できたんだけど、証明を書くには余白が少なすぎるよーん」と書き込みを残した。以降、3 世紀にわたって多くの数学者の頭を悩ますことになる。
関連して数学の様々なトピックが取り上げられる。数学とは何か? 数学者とは何者か? …などなど。著者サイモン・シンは素粒子物理学の博士号を持つとかで、物理における真理と数学における真理の違いの考察は興味深い。物理の法則は新しい発見によってくつがえされる可能性があるが、数学の法則は、絶対のものである、とか。
むつかしい話を簡単に説明するテクニックが素晴らしく、「最大の素数が存在しないことの証明」、「15 パズルの、14 と 15 を入れ替えたものは元に戻せないことの証明」などが、数式を用いずに解説され、中学程度(最近はむずかしいみたいだけど)の生半可な知識でも楽しく読み進むことができる。ガウス、ガロア、ゲーデル、オイラーなど数学界のスーパースターが続々登場、数学史の概観にもなっており、細かいところはわかんなくても得るモノは多い、はず。
定理が証明されたかて、どないやねん? と思うところであるが、ただ純粋に数の性質を追求する学問であるところの数学、数論は、コンピューターの基礎を築き、暗号に利用され、ヘッジファンドの計算や国家戦略立案など、さまざまな分野で利用されている。「-1」の平方根は、存在しえない数として「虚数」の名が与えられているが、量子の動きを計算するに不可欠の概念になっている。まあ、難しいことはよくわからないのだが、とにかくスゴイぜ!
数論のあらゆる分野がフェルマーの最終定理の証明に向かって突き進んで行くのが感動的である。各種数論を統一しようというラングランズ・プロジェクトというのがあって、ワイルズによってなされた証明が、その突破口になるらしい。すなわち数学の地平はまだまだ広がっているということだな。うーむ。
さて、谷山=志村予想とフェルマーを結びつける発見はカフェで成された。
メーザー教授はカプチーノをすすりながらリベットのアイディアに耳を傾けていたが、突然ぴたりと動きを止め、信じられないといった顔でリベットを見つめた。
「おい、わからないのかい。もう解けているじゃないか。(M)構造ガンマ・ゼロを加えてやって、きみの理論にあてはめればいいんだよ。それですべて解決するじゃないか」(※)
…なんか、メチャクチャカッコいいと思いませんか? 若きゲーデルも、カフェで数学を語りあった、ということで、あなたもカフェでこの本を片手に数学者の冒険に思いをはせてみては? と、情報誌っぽくまとめてみました。オソマツ。
(※は同書より引用:BABA)
Original: 2000-Mar-18;
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