スリーピー・ホロウ
ティム・バートン久々の新作。『マーズ・アタック!』のイケズさに比べると、誰でも楽しめる(かな?)ホラー+ロマンス+ミステリー+冒険+活劇に仕上がっており、少々ヌルいか? とも思うが、なんちゅうか、全編に T ・バートンの美意識がつらぬかれ、呆然とする美しさ。完璧。最高。お見事。ハラショー。抜かりのない映画ってのはホントに、良いです。
クリストファー・リー主演『吸血鬼ドラキュラ』などのイギリス・ハマー・プロの映画を意識した雰囲気になっているらしいが、サイレント映画のおもむきを今に伝える画面づくりで、久々にオーソドックスな映画を見た、という印象である。ていねいにショットを積み重ねてサスペンスを盛り上げる気持ちの良い緊張感あり。いまや映画の王道を突き進まんとす T ・バートンに「オタク」のレッテルは、もはや不見識というものであろう。オタクの人には申し訳ないけど。
1799 年のニューヨーク近郊の村“スリーピー・ホロウ”で連続首切り殺人事件が発生、J ・デップ扮する市警捜査官が、真相を突き止めるべく奮闘する。
で、怪しげな人物多数登場、クリスティーナ・リッチは富農の娘で、案の定 J ・デップと仲良くなって…となんともクラシック。脇役も良いが、このカップルがとにかくよろしい。C ・リッチは、ボクの好み的には『アダムス・ファミリー 2』以来の良さ。とにかく手に汗握るシーンありで、万人が(きっと)理屈抜きに楽しめる作品に仕上がっている。が、例によって少々理屈をコネさせていただく。
科学を信奉する頭デッカチの J ・デップが「首(=すなわち頭脳)のない騎士」を追いかける、ということで「科学」と「非科学」の対決という図式がこの映画に隠されている。
「魔術」を実在のものとして描いている、ということで、リアリスト=科学主義者の J ・デップが「魔術」に屈服しているように見る向きもあるようだ。しかし、科学ってのは、理論的に存在不可能なものが存在しているとしたらば、理論を検証・修正するってモノだ。魔術の存在を確認した後 J ・デップは、それが存在することを前提として行動する。決して科学が敗北しているわけではなく、リアリストの立場は堅持される。
「非科学」の代表、「首(頭脳)のない騎士」はどうか。頭のない状態の彼は、他者にあやつられていたことが明らかになる。「非科学」的なヤツは結局他者に操作される弱さをまぬがれ得ないのだ。
敗北すべきものは何か? 取り調べもしないで罪人を処罰すること、魔法に「悪」のレッテルを貼ること、また「宗教」の名において「魔法」を断罪すること――すなわち「教条主義」――ものごとを固定的に、独断的にみることをこそ、この映画は批判しているのである。J ・デップが偏見を脱し、魔法の中に存在する善なるものを見いだしたとき、すべての真相が明らかになることを思い出そう。この映画を「科学の敗北」「魔法礼讃」と見るのはあまりにも表層しか見ていないと思うのだが、いかが?
ともかく、首がジャキーンと切り落とされたり、血がドバーッと出たりもするが、見事に洗練されており、なんちゅうか、さすが。特撮は、近頃データ使い回しで不調の ILM 。ちょっと痛めなところもあるのだが、驚くべきシーン多数。とにかく最高!
あ、そうそう。「月夜の晩は、なくした首がすすりなく」…って、あんまりなコピーですな。
BABA Original: 2000-Mar-03;
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