トゥルー・クライム
『許されざる者』あたりから、「オレはオレの好きなように撮る!」と老人力がグングンつきだして快調のクリント・イーストウッド監督・主演作。日本での興行価値はグングン下がっているようで、朝日シネマでの上映なのは残念。
かつてはニューヨーク市長の汚職を暴きピューリッツァ賞も取れるか? という気鋭のジャーナリストが女好きにたたられてクリーブランドに都落ち、アル中になったりもして自慢の直感も鈍りがちな主人公が冤罪を暴く、というお話。原作では 35 歳という設定らしい主人公を 70 歳近いイーストウッドが演じるのは少々無理があり、嫁さん若過ぎ! というツッコミを入れたくなるが、実生活でもイーストウッドはお盛んなようなので気にしないでおこう。イーストウッドの娘を演じているのは実の娘だったりするそうだ。かつてのダーティ・ハリーが子どもをベビーカーに乗せて「スピード動物園だぁ〜! 早いぞぉお〜!」と走り回るシーンは涙なしには見れませんな。
さて「トゥルー・クライム」=本当の犯罪とは何だろう? この映画で嫌悪の感情を持って描かれるのは、女の子の関心を引きたさに殺人事件の目撃体験をしゃべりまくるオッサンだったり、マスコミ向けにありもしないことをデッチ上げる牧師だったり…。要は雰囲気に流され、事実を歪めるヤツらだ。対するイーストウッドは、先入観や世論に惑わされず自分で見聞きしたことだけに基づく直感を信じる。アル中時代を経て、イマイチ自信も揺らぎがち、おまけに家庭は崩壊寸前でモタモタしつつも真実に接近していく。
人の言うコトってのは、悪意はないにせよウソをついている、または記憶が捏造されている可能性があることを肝に銘じよう。少なくとも歪みは必ずある。アメリカのみならず聞きかじりの話を鵜呑みにして偉そうに論評するヤツってのはどこにでもいるが(あ、ボクも?)、我々はあらゆる情報を疑ってかからねばならないのである。
一方、「こいつ、無罪かも?」と疑いを抱きつつも死刑執行を命ずる刑務所長は好意的に描かれている。容疑者を裁くのは裁判所の仕事、オレは刑務所の所長としてベストを尽くすのみ、という態度だ。刑務所長に対応するキャラクターはやたら「禁煙!」を強要する新聞社の上司だろう。ジャーナリズムの本分はどこへやら、今さら死刑囚が無罪だなんてほざいてないで「大衆」が読みたがる記事を適当に書いておきゃあ良いんだ、という姿勢だ。イーストウッドはスジを通さないヤツ、本分を忘れたヤツは許さない。ヤッピー野郎、殺す! …っても今回はジャーナリストって設定だから女房を寝取るくらいで勘弁しといてやるか、ってところでしょうか。
充分検証されない情報を流すヤツ、それにホイホイ扇動されるヤツらが合作で作り上げたシステムこそ「真の犯罪」なのである。
師匠のドン・シーゲルゆずりのクールな演出は未だ健在。死刑執行まで 12 時間、果たして? と、まったりサスペンスを盛り上げます。死刑囚とイーストウッドのやり取りもグッと来る。イーストウッド最高!
BABA Original: 2000-Feb-10;
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