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Movie Review 2000・2月9日(WED.)

ワールド・イズ・ノット・イナフ

公式サイト: http://www.007-jp.com/

「荒唐無稽のスパイ映画」を装いながら常にイギリス帝国主義のプロパガンダを行って絶大なる効果を上げてきた 007 シリーズも 19 作を数える。かつての「仮想敵」は社会主義国をあてこすった「スペクター」。世界転覆をたくらむオウム真理教のような組織であったが、ソ連崩壊とともに仮想敵の描き方にも変化が見受けられる。

 今回の敵役 R ・カーライルは脳に銃弾が入り込み、触覚・痛覚を失った超人、という設定。この世に楽しみは何もなく、ただひたすら愛する者のために身を捧げる、とこれまでの 007 の悪役とは少々毛色が違っている。

 対するジェームス・ボンドは相変わらず欲望に忠実で、セクハラまがいの行為に反省なし。しかし「秘密兵器」に対する態度には前作あたりから大きな変化がある。ショーン・コネリー時代には「秘密兵器」に対してはストイックであった、と思う。「こんなもん、役にたつかね? ふふん?」というスタンスで、本当の絶体絶命のときにトンチを効かせつつマニュアル通りではない使い方で危機を脱する、というパターンだ。危機を脱するのに必要なのは「秘密兵器」ではなく、己のトンチ・パワーだった。

 今日のブロスナンは如何だろう。例によって「秘密兵器」がいくつか登場するが、彼は喜々としてそれを使う。新しい玩具が嬉しくてしょうがない。まだ開発段階のモノまでムリヤリ持ち出して壊してしまう。逆に、トンチ・パワーは無惨なもので、今作での危機の脱し方のいくつかは、自身の知力・体力・度胸によるのでなく、他者がもたらす偶然の力によるところが多い。そう、ソ連解体後のブロスナン・ボンドが伝えようとするメッセージは、資本主義社会における仮想敵=ストイックさとの戦いなのだ。「カーライル:感覚的な快楽を拒絶した殉教者」対「ボンド:新商品を大喜びで消費しまくり快楽に身をまかせ、ドンドン知能を低下させていく政府の犬」という図式である。題名が意味するのは「世界を手に入れたって、オレ様のチンポは満足しないぜ!」という欲望をトコトン肥大させることの美徳を唱っているのだ。かつては「スペクター:組織にがんじがらめに縛られる馬鹿者ども」対「J ・ボンド:組織に属しながらも反抗がちな一匹狼、おまけに美女付き」という図式があって J ・ボンドにもすんなり感情移入できたのだが、最近はそうも行かなくなってきていて残念。

 ボクがもともと R ・カーライル好き、という事情もあるのだろうが、カーライル可哀想過ぎ! ボンド死ね! って感じだ。以前のシリーズにも「魅力的な悪役」は多数登場したが、そもそも S ・コネリーが悪人面なので、ボンド最高! だったのだけど、最近はいけませんやね。

 とはいえ、このシリーズが持つアクション・シーンの独特のデザイン感覚は健在。冒頭テムズ川のボート・チェイスなど不条理感も漂い、非常によろしい。また今回、ジョン・クリース(ひょっとしてレギュラー入り?)が登場、そこだけムチャクチャ『モンティ・パイソン』っぽくなるのがおかしいです。さらにソフィー・マルソーの金持ちゴーマン女ぶりが良いし、『スターシップ・トルーパーズ』『ワイルド・シング』のデニース・リチャーズが核物理学者の役で登場、いきなりホットパンツにタンクトップ、どこが核物理学者やねん! とツッコミを入れたくなることウケアイ。エンド・タイトルには日本でのみルナ・シー featuring DJ Krush の曲が流れるので、脱力感を全開させたい方にはオススメだ。ルナ・シーと DJ Krush は 007 映画のエンディングを台無しにしたヤツらとして映画史に名を残した。

BABA Original: 2000-Feb-09;

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