破線のマリス
井坂聡監督の前作『[Focus]』は、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』風に、ウソドキュメンタリーの手法を使ってテレヴィ番組制作のアホさを描いた傑作であった、と思う。今回も、テレヴィ・ジャーナリズムのいかがわしさを扱っている。
黒木瞳はニュース・ヴァラエティの「事件検証」コーナーを担当する編集者だ。「材料さえ揃えてくれればいかなる真実も描いてみせる」というトンチキな自負を持つ。ディレクターのチェックを免れるために、オンエア直前ギリギリまで編集を仕上げない、というタチの悪さだ。
彼女のもとに、郵政省の汚職にからむ自殺事件の真相を示唆するヴィデオが持ち込まれる。彼女は、一切裏付けを取らず、本人に取材することもなく、巧みに、郵政官僚の陣内孝則が暗躍していた、と匂わせる編集をして放送してしまう。ところが…、という話。原作はテレヴィ・ドラマの脚本などを書いていたらしい野沢尚の江戸川乱歩賞受賞小説。
オープニングはテレヴィ報道においていかに情報の捏造が行われているかがテンポ良く描かれ、ちょっとワクワク。が、やがて物語は黒木瞳と陣内孝則のストーカー合戦の様相を見せ、これはこれでおもしろいのだが、テーマがズレた、と思う。結局、情報操作が旺盛に行われるシステムの問題には充分触れられていない。
宣伝惹句は「すべてを疑え。」で、パンフレットの野沢尚氏の言によれば、
この原作小説が出版された時、「テレビ界の内部告発小説」とよく言われた。それは間違っている。私に告発したい相手がいるとしたら、それはテレビの作り手ではなく、視聴者の方だ。報道被害をはじめとするテレビから垂れ流しにされる情報を、視聴者はこれまで、あまりにも無感覚で受け止めてきた。
…ってことだが、うるさいっちゅうねん。テレヴィ(に限らず、あらゆる情報)のいい加減さなんて、みんなとっくに気づいているのではないのかね? 特にマスコミなんて、企業の広告費が収入の大部分を占め、スポンサーの機嫌を損ねないことが大前提になっている。そんな制限を持つ報道が「真実を伝える」なんて誰も思っていないのでは? そもそもテレヴィ報道の中立性や客観性を視聴者が信じている、というところから出発しているから、ラジカルさが売りの題材なのに、しょうもない展開に陥ってしまった、と言えよう。
この映画を見て「なるほどテレヴィってのは恐ろしいもんでげすな」と素直に感じる人もいるだろうが、メディアの情報操作ってのはもっと巧妙で、計画的なものだと思うし、そういうエグいところをおおい隠す役割をこの映画は果たしていると思うのだが、どうか。
とはいえ、身から出たサビながら、黒木瞳がどんどんダメダメな状況にはまりこんでいくのが痛快、かつ陣内孝則も可哀想過ぎで、たいそう笑かしてくれるのでオススメだ。
BABA Original: 2000-Apr-12;
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