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Text by 小川顕太郎
2005年12月25日(Sun)

クリスマス撤去
etc

 クリスマス騒ぎも今日で終はり。明日から年末へと向けて新たな装ひに街は覆はれる訳だが、その前にクリスマスの飾り付けを外さなくてはならない。それには臨時に大量の人手が必要だ。といふ事で、学生などがアルバイトに駆り出される訳だけれど、新風館のその仕事に、カズ16が駆り出された。

 ま、半ばは我々が強引に送り込んだ訳だが、いいではないか、カズ16も色々な経験が積めて。で、数日前に、我々も一応カズ16を送り込んだ手前、新風館の様子を見に行つた訳だが、ビルの一番高いところにでかい飾り付けがしてあつて、思はず笑つてしまつた。いやー、あれを取るのは大変だ。しかもここ数日は何年振りかの厳寒で、雪が降りまくつてゐる。その中をカズ16が悪戦苦闘するかと考へるだけで、幸せな気分になれた。

「でも、あんな高いところ、素人には登らせないでせう」とトモコが言つた。うむ、さうかもしれない。それは、面白くないなー。…と、ここで、私の頭に突如としてあるビジョンが鮮明に現れたのである。

 吹雪の中、ひとりの男が立つてゐた。地下足袋に法被姿のこの男の呼び名は「和寅」さん。どんな高いところの飾り付けの撤去も楽々やつてのけるといふ、半ば伝説化したプロの撤去屋である。吹雪といふ悪天候から、彼でないと無理だ! といふ声があがり、わざわざ呼ばれてやつて来たのだ。現場主任を先頭に一同は丁重に彼を迎へ、状況を説明した後、一斉に頭を下げ、叫んだ。「和寅さん、よろしくお願ひします!!!」

 それに対して重々しく頷き、無言で和寅さんが一歩を踏み出さうとしたその瞬間! 「はい」といふ些か間抜けな声がして、誰かが前に進みでた。それは、我々から「予言俳句を詠むカズトラダムス、略してカズトラ!」と日頃呼ばれてゐるカズ16であつた。

 寒さのあまり頭が麻痺してゐたのか、たまたま伝説の撤去屋と同じ呼び名だつたのが災ひしたのか、自分のことと勘違ひしたのである。ヒョイヒョイと迷ひもなく梯子を登つていくカズ16。あまりに当たり前のやうにカズ16が振る舞つたので、和寅さんをはじめ一同は呆気にとられて声もかけられない。みんな事態がよく飲み込めてをらず、ただ口を大きく開けてゐるばかり。その口の中に、静かに雪が降り注ぐ。さうこうするうちに一番上まで辿り着いたカズ16は、無造作に飾りを外さうとしたが、さう上手くいく訳がない。しばらく梯子の上で藻掻いてゐたが、無理に力を入れた途端、バランスを失つて真ッ逆さまに落ちてきた。みんなの目の前で、地面に叩きつけられるカズ16。慌てて一同は駆け寄り、カズ16を取り囲んだ。現場主任が勇を鼓してカズ16を抱き起こしたが、すでに事切れてゐる模様。あまりに一瞬の出来事であつたので、みんな凍りついたやうに動かない。いや、動けない。重い沈黙が辺りを支配する。…と、その時、カズ16のジャンパーのポケットから一枚の紙がヒラリと落ちた。現場主任がそれを拾つて読む。そこには「クリスマス夢も抱かず墜落す」といふ文字が書いてあつた。これが、カズトラダムスが詠んだ最後の予言俳句であつたとは、そこにゐる誰も分からないのであつた…。

 ……あ、一寸ボーっとしてゐたわ。

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