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Text by 小川顕太郎
2005年12月26日(Mon)

ロード・オブ・ウォー
映画

 TOHOシネマズ二条にて「ロード・オブ・ウォー」(アンドリュー・ニコル監督)を観る。世界各国の紛争地帯に行つては武器を売る“死の商人”、その中でも史上最強といはれたユーリー・オルロフをニコラス・ケイジが演じた作品である。むろん、ユーリー・オルロフとは架空の人物であるが、実在する武器商人何人かのキャラクターを混ぜ合はせて作られたやうで、それぞれのエピソードはほぼ実際にあつた事らしい。

 と、ここまで読んで、なんだか深刻な話なのかな? と思つた人もゐるかもしれないが、なんのなんの。スタイリッシュでカッコイイ映像に、ツボを押さへた音楽、目を楽しませる風景やファッション、軽快な語り口にニコラス・ケイジの抜群の好演が加はつて、1級のエンタテインメント作品となつてゐるのであつた。

 これはなかなか凄いことだと思はれる。何故なら、“職業に貴賤なし”といふ言葉があるけれど、この言葉は“人間は平等”とか“愛は地球を救ふ”とかと同じやうに胡散臭いもので、実際には世の中で蔑まれてゐる職業はいくつもある訳であつて、武器商人といふのもその最たるもののひとつ。“死の商人”などと呼ばれて世の良識ある人々の眉を顰めさせてゐるのだが、その“死の商人”を主役に据ゑ、彼の人間的魅力をいかんなく描いてゐるからである。

 もちろん、これにはニコラス・ケイジの好演が与つて力ある訳だけれど、それ以外にも、この映画自体が、“死の商人”を非難するヒューマニスティックな人々の薄ッぺらさを描いてゐる事も大きい。ユーリーを追ふ、インターポールの面々は当然のごとくユーリーを罵倒しまくるのだが、いかにも正義漢面したイヤな奴ら、てな感じだし(イーサン・ホークが好演!)、ユーリーの真の職業を知つてしまつた両親や妻は彼を捨てるのだけれど、なんとも独善的な感じが漂ふ。これは、最後にユーリも言ふごとく、最大の武器商人こそアメリカ大統領=アメリカ帝国な訳で、ユーリの妻は「私は血で汚れたお金なんて要らない!」と宣ふ訳だが、結局はアメリカ帝国そのものが血塗られたお金で成り立つてをり、自分たちはそこでぬくぬくと生きてゐる訳で、それなのにユーリと手を切れば自分は潔癖でゐられる、と思ふその精神が独善的だからである。これらの人々に較べれば、残虐極まりないリベリアの独裁者親子の方が、よほど魅力的だ。少なくとも彼らには偽善がない。アフリカの過酷な現実が、人生の真実を露呈させるからである。

 この映画に出てくる大量の武器は、ホントに武器商人から借りた本物らしい。そんな武器の格好良さ、圧倒的な才能を持つてしまつた男の栄光と孤独を体現するニコラス・ケージの好演、に酔つた122分でした。

公式サイト:
http://www.lord-of-war.jp/

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