マカオ日記 二日目
朝起きてシャワーを浴び、ポルトガルワインを手にベランダに出る。今日も快晴とは言ひ難い。それでも、森と海とプールを見ながらワインを飲むのは気持ちがいい。さらに、朝食はルームサービスでベランダにて摂つたのだけれど、柔らかい朝の光と風に嬲られての食事は実に気持ちよい。加へて、この朝食が美味い! 且つ、量が多い! 点心とお粥とお茶といふ「オリエンタル・ブレックファースト」を摂つたのだが、とても食べ切れさうにない! が、頑張つて食べる。ここで頑張らねば。鳥まで飛んできて、ベランダの柵に止まつたりする。うむ、最高だ。が、苦しい…。私はトモコがネイルサロンに行つてゐる午前中の間、ずッと庭のベンチで伸びてゐた。
オフシーズンといふ事もあつてか、ほとんど人の影がない。代はりに、何匹もネコがゐる。そして南国の鳥。ホテルの使用人の人たちが、ゆつたりと庭の整備をしてゐる。時がネットリとのし掛かつて来るやうだ。私は「怠惰」を具現化したやうな格好で、ひたすらベンチの上で仰臥し続けた。
トモコがやつて来たのはもうお昼。そこでタイパ島にあるホテル、ハイアット・リージェンシーまで昼食を摂りに行く。正に食ッちャ寝のリゾートライフ。我々が乗り込んだのは「フラミンゴ」といふ名のマカオ料理屋だ。マカオ料理とは、ポルトガル料理と広東料理が混ざつて出来上がつた、香辛料を大量に使つた料理である。これがまた! メチャメチャ美味い! そして、メチャメチャ量が多い! 美味いものを大量に食べる、といふのは正に至福の極みである。が、その快楽の果実を味ひ尽くすには強靱な胃袋がゐる。今回の旅ほどその事を思ひ知らされた事はない。これは、是非とも胃袋を鍛へなければ(でも、どうやつて?)。ハイアット・リージェンシーのケーキ屋で、赤ん坊の頭ぐらゐの粽を購入。うーむ。
その後、マカオ市内へとタクシーを飛ばす。マカオは、1999年に中国に返還されるまで、ポルトガルの植民地であつた。故にマカオ市内には中世ヨーロッパの佇まひが残されてゐるといふ。東方におけるキリスト教布教の中心地であつただけあつて、教会の数はローマより多いらしいし、石畳の道、石造りの館、坂道、教会、など、往時のリスボン、長崎、マカオには共通点が多いと言はれ、どの街にもポルトガル人の美意識が色濃く反映してゐる、と言はれてゐる。何冊か買つたガイドブックの類にも、息を飲むやうな美しい、静謐な街並みの写真が多数掲載されてをり、我々はマカオ市内に乗り込むこの日を楽しみにしてゐた。とりあへずの出発点に、我々はセナド広場を選んだ。スペインとポルトガルが世界を2分してゐた頃の境界線が引かれてゐる地球儀をいただいた噴水が中心にある、ひたすら美しい広場である。
「ほら、ここだよ。着いたよ」てな内容の事をタクシーの運転手が言つた。やうに思つた。…あれ? 何か行き違ひがあつたかな? 実際、タクシーの運転手さんは英語が喋られないので、うまく意志疎通ができないのだ。しかし、降りろと言つてゐるから仕方がない。とりあへず降りるにしても、ここは何処だ? なんだか大阪の天王寺をさらにキッチュにしたやうな場所だが…。
「あ! あの噴水! ここ、やはりセナド広場ぢやない!」
な、なにー!!! い、言はれてみれば、ゴチャゴチャとした露天商の下には美しい石畳が。ゴテゴテとした電飾看板がついてゐるのは美しかるべき西洋館。俗悪と言ふべき格好をした人々が犇めきあひ、叫びあつてゐる。こ、これは…。中国に返還されてから約6年。恐るべし、中国。としか、言へません。
聖ポール天主堂、モンテ砦、マカオ博物館…いや、どれもこれも、何とも。
「さう言へば、マカオはトホホ観光地として有名なのよ。世界遺産にも何カ所も申請してゐるんだけれど、チットモ認められないの。でも、確かにコレぢやねェ…」
分かつてゐたなら早く言つて下さい。
しかし、さりげなく街中にある墓地はなかなか良かつたし、廬九公園(ローガン・クンユン公園)は素晴らしかつた。庭内でやつてゐる無料の絵画展では、張大千や斎白石、陳家冷の書画が見られたし。ここにはまた来てもいいな。周りの街がなかつたなら。
ホテルに帰つてスパでマッサージ。泥のやうに眠りました。
小川顕太郎 Original: 2005-Jun-12;