マカオ日記 三日目
今日は初めての快晴だ! ベランダから見られる風景が原色の鮮やかさを増し、気持ちいい。やはりかうでないとリゾート感がない。我々は今朝の朝食は1階でのバイキングを選んだ。庭にあるテーブルを占め、大量に料理をとつてくる。言ふまでもなく美味い。が、テーブルの側に常にホテルの使用人の方が立つてゐて、些か落ち着かない。もちろん、我々の世話をやくために立つてゐるのだが…。我々の他の白人客たちは違つた。チットモ気にしてゐる様子はないし、用事のある場合は目の動きだけで彼らを使役したりしてゐる。うーむ、かうでなければリゾートライフと言へないのではないだらうか…。
午前中はホテルのプールへ。と言つても、ゐるのは主にプールサイドで、傘の下にある寝椅子に横たはり、フローズンマルガリータなんかを飲んだりする。トモコは、小・中・高と学校でプールに入ることを拒否し続けたといふ珍しい経歴の持ち主なので、プールに来ること自体人生で何度目かといふ快挙らしく、恐る恐る水に入つた後は、無邪気にはしゃいでゐる。「泳ぎ方を教へてー」と言はれたが、ここまで全く基礎のない人に、私はよー教へません。大体、サングラスかけたままでプールに入つてゐるし。
午後はコロアネ村に行く。ここはホント僻地の漁村なので、中国化・近代化の波もまだ訪れてゐず、古き良きマカオ風情が残つてゐた。原色とパステルカラーが着色された石造りの家々、石畳、道教のお寺や供へ物の数々、生ひ茂る熱帯植物、様々な色のタイル。何より、ここにはゆつたりした時間が流れてゐる。かういふものを我々は求めてゐたんだ! 多大な興味を持つて、狭い村の中を歩き回る。村一番(唯一?)の有名観光スポットである聖フランシスコ・ザビエル教会の、良い意味でのキッチュさに感嘆しつつ、教会の前の広場にあるカフェで遅い昼食をとる。
この村にはもうひとつ有名スポットがあつて、それはアンドリューと言ふ名のケーキ屋さんなのだけれど、世界的に有名らしく、わざわざこの僻地までここのケーキを買ひに来る人々が絶えないといふ。実際、何人もの白人のお客さんがクルマでやつて来ては、ケーキを買つてゐた。うーむ。我々も勿論買ふ。
この村には何故かポリスが多くゐた。ホント何十人ものポリスがゐるので、些か変な感じはしてゐたのだが、散歩の途中で村はずれに出ると、保安局の射撃場があつたので、それでか、と納得。が、実はそれだけでなく、少年院があつたのだ。それを我々は帰る時にタクシーの中から確認し、一種の感慨に打たれたのであつた。
ホテルに帰ると疲れ果ててをり、眠つてしまふ。起きるともう夜中。うーむ、やばい。我々にはまだやらなければならない事が残つてゐる。それはもちろん、カジノだ!!! やはり、行かねばならないだらうな、これは。我々はシャワーを浴び、勝負服に身を包んで、すでに夜中の0時を回つた夜道をタクシーで飛ばし、マカオ市内へと向かつた。行き先はホテルリスボア。五つ星の一流ホテルだが、公営では最大のカジノがついてゐるのだ。燦然と光り輝くネオン、ネオン、ネオン。さて、中はどうなつてゐるのだらうか? ドレスコードはない、と言ふが、我々のやうな格好でも大丈夫だらうか? 我々はドキドキしながらカジノへと踏み込んだ。すると……。こ、ここはパチンコ屋ですかー! 雪駄履きのをぢちゃん & をばちやんが、ワラワラと犇めきあひ、異様な活気を呈してゐたのである。ムムム、客はチャイニーズばつかり。ガイドブックに載つてゐたスーツ姿の白人の男女なんて、どこにも見当たらない。まァ、上階のVIPルームに行けばゐるのかもしれませんが。我々は、しばらく会場をウロウロとして観察し、「大小」といふゲームをやる事にした。サイコロゲームである。で、首尾の方だが……、ま、トモコが辛うじて勝ち逃げをした、とだけ書いておきませう。
カジノを後にした我々は、ホテルリスボアの地階へと降りた。売店でもないかと思つたのだが、代はりに食堂街があつた。まさに食堂街、といつた感じで、大阪駅前第一ビル地下食堂街、といつた感じの、とても五つ星ホテルの地階とは思へない所だつたのだが、これがまた! カジノに劣らぬ程の活況を呈してゐたのである。ガラス張りの店内にはギッシリと人がゐるし、通路にも人々がひしめき合ひ、行き交つてゐる。私はフッと、目の前にゐる女性に目を奪はれた。身長は175センチくらゐ、黒髪の長髪で顔は某美人女優のやう、スタイルは抜群、そして真ッ白な恐ろしく露出度の高いワンピースを着てゐる。これは……、と、いきなり、その女性が、ただでさへ短いスカートを、チラッと捲つて見せたのである! 私の前を歩いてゐた男性に。もしや彼女は…娼婦の方では? と閃いた瞬間、私は周りを改めて見直して、卒然と気がついた。そこにゐる何十人といふ男女は、全て娼婦とそのお客さんであつたのだー! …にしても、彼女たちのキレイな事には驚かされた。もちろん、整形をしてゐるのだらうが、それにしたつてスタイルはいいし、堂々たるものだ。私が今まで現実世界で見てきた娼婦の方々とは、かなり印象が違ふ。圧倒されてしまつた。効きすぎの冷房によつて彼女たちが身体を壊さないやう祈りつつ、そこを出る。
外に出ると、ロシア人娼婦の方々が、そこかしこに屯してゐた。うーむ、欲望の街だなァ、マカオ。正直言つて、ロシア人娼婦の方々は、先程のチャイニーズ娼婦の方々に較べて落ちる感じであつた。やはり、あそこはAクラスの場所なのか、な?
しばし、夜の街を彷徨。ここからが始まりぢやないのか。しかし、今から我々はホテルに帰り、荷造りをやらなければならない。俗悪の極みのやうなネオンの洪水が、やたらと目に心地良い。……
小川顕太郎 Original: 2005-Jun-13;