花見二日前
テラリーから電話。声が裏返つてゐる。少々回りくどいその話を要約すると、要するに、大学の体育会系ネットワークを使つて押さへてゐたはずの花見の場所がオジャンになつた、といふ事だ。んー、ま、仕方ない。さういふ事もあるだらう。頑張つて自分らでとるしかないんぢやないか。今年は桜の開花も遅いやうだし、平日の事でもあるので、なんとかなるだらう。と、私は言つて電話を切つた。そして、ババさんと映画『理由』の話などをしてゐると、テラリーがやつて来た。かなり酔つてゐる。花見に行つてたの?
「いえ。学部の方の飲み会で。日本酒7合ほど飲んできました。」
7合! よく飲むなー、テラリー。強いね。
「はァ、そんな事より…、こ、この度は申し訳ありませんでした!」
いや、まー、仕方ないんぢやないか? 別にいいよ、そんな大騒ぎするやうな事ぢやない。「それが、結構事態が紛糾してゐるんです。ボクからの依頼を請け負つた後輩なんて、
泣き出してゐるやうで…」な、なんで? テラリー、何かしたの?
「いや、特になにも。ただ、ボクは結構怖い先輩だと思はれてゐるみたいなんです。といふのも、ボクは部の在り方に疑問をもつて、それを正さうとし、先輩たちと衝突して、かなり揉めて部を辞めたんですよ。それが今でも語り草になつてゐるみたいで。それに、辞めたとはいへ今の部の主将とは仲が凄くいいし。そんなこんなで主将も出てくる、後輩は泣く、で、部をあげての騒ぎになつてゐるんですよ。」
うーん、大袈裟な。…でも、テラリーッて、きつと奥崎謙三みたいな人と思はれてゐるんだな。上官を殴つて、本土に帰されたといふ。うむ、それで、「あー、あの人を怒らすとマズいよ」「さうさう、パチンコが飛んでくるよ」と、周りの奴らが脅かしたんだ、その後輩を。…にしても、パチンコを怖がる弓道部、ていふのもなー。どうよ?
「勝手に話を作らないで下さい」
んー、でも弓道部なんだし、いざとなつたら良い席に座つてゐる人たちをバンバンと射倒して、席を奪取すればいいんぢやないか。
「捕まりますよ! そんな事したら」
いいぢやないか、2〜3年ほど入つてきたら。出所したら、オパールの幹部として迎へるから。な?
「なにが『な?』ですか! ボクはずつとアルバイトで結構です!」
最近の若い奴は向上心がないなァ…。
花見まで、あと二日です。
小川顕太郎 Original: 2005-Apr-9;