Diary 2004・12月26日(Sun.)
刺股
ハッサクさん来店。ハッサクさんの職場は、言つてみれば博物館のやうな所なのだが、ここは様々な人々が訪れるので、変な人が来て暴れたりした時の用心に、刺股が常備されてゐるのださうだ。刺股とは、江戸時代に罪人などを捕らへる時に用ゐた三道具の一つである(他の二つは突棒と袖搦)。長い棒の先に、二股に別れた鉄製の頭部がついてをり、これで罪人の喉を押さへ込んで捕まへるのだ。しかし、そのやうなものがまだあり、実際に常備してゐる所がある、といふのは驚きである。一体、どれほどの効果があるのだらうか。
「全然ないと思ひます。使ひこなすには練習が必要らしいんですが、誰も練習なんかしてゐないし。みんな、高い所にあるものを取る時なんかに使つてゐますね」
ううむ、やはり。しかし、よく考へてみると、案外効果があるかもしれない、といふ気もする。例へば、変な人がやつて来て暴れ出したとする。そこに、ハッサクさんのやうな女性が刺股を持つて颯爽と現れたとしたら、どうか。この暴れてゐる人はどう思ふだらうか。…なにか、高い所にあるものを取らうとしてゐるのかなァ、と思ふだらう。うむ、ダメか。…いや、それでも刺股といふものは、かなりの威圧を相手に与へるはずだ。それを、ハッサクさんのやうな女性が無茶苦茶に振り回してゐたら、どうか。…駆けつけた警備員の人に、ハッサクさんが取り押さへられるだらう。ううーん、ダメだ。そもそも、なんで刺股なんか備へつけてゐるのか。なぜ他のものではいけないのか。突棒や袖搦でもいいではないか。何か特別な理由でもあるのだらうか。
「さァ、高い所にあるものを取りやすいんぢやないですか」
なるほど。さういふ事だつたのか。
オパールにも備へるかな、刺股。
小川顕太郎 Original: 2004-Dec-28;