クラブエデン
バンちゃんことバンヒロシさんが来店。5 月 13 日にクラブイーストにて行われる『クラブエデン』というイベントのチラシをまいている最中だという。
このイベントでは、なんとバンさんが約 20 年振りに歌うそうだ。昭和歌謡からのサンプリングにギターとベースをのせ、ダンサー二人をバックにバンちゃんが坂本九のごとく歌いまくる、というスタイルらしい。これはバンちゃんファン、歌謡曲ファンには見逃せないステージになるのではないだろうか。
昭和歌謡といいますが、どこらへんのをやるんですか、と私が問えば、「ラテン、かな。ブガルーとか」との答え。それはいいじゃないですかと言うと、「いやあ、『ブエナ・ビスタ』良かったからねえ、影響を受けたかも」と言う。
バンちゃんまでも! と私は吃驚した。とにかく最近みんなやたらと『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』を観ているのだ。そして観た人のほとんどが絶賛している。私自身も観ており、日記でも絶賛に近い褒めかたをしてしまったのだが、どうにも引っかかる。そこまでみんなにうける映画とは思えなかったし、なによりそこまで絶賛する映画とも思えないのだ。自分でも褒めておいてなんだと思われるかもしれないが、そこまで大騒ぎするとは思えなかったので、判官贔屓っぽく褒めてしまった部分があるのだ。それにしても、これは一体どういう事か。
ババさんにこの疑問をぶつけると、興味深い答えがかえってきた。この映画はシネマライズという所が配給しているのだが、ここは配給しようと決めた映画の事を徹底的に分析し、大々的なメディア戦略を展開する事で有名らしい。ターゲットを絞り、そこに向けて本、雑誌、CD 、ラジオ、テレビ、などあらゆるメディアを使って、とにかく今この映画をみなければ! という雰囲気作りをしていくのだ。この手法で、『トレインスポッティング』『ムトゥ踊るマハラジャ』を大ヒットさせた実績もある。そして実際に『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』も大ヒット中だという。
映画を大ヒットさせるには、普段あまり映画館に足を運ばないような人々を動員しなければならない。つまりこの映画には、普段あまり映画館に足を運ばないような人々が大量に詰めかけているという事だが、そういった人々が一様に「最高! いい映画だった!!」と言うので、ひっかかりを感じるのかもしれない。
ついでながら付け加えておくと、この映画を観た人はたいてい「老人達の顔がよかった」という。私も日記にそう書いた。が、実はこの映画のメディア戦略のキーワードのひとつが「老人」らしい。我々はみな踊らされていたというわけだ。
しかし、そんな事を言っても「いいものはいい!」という意見はあるだろう。確かにこの映画に出てくる老人達の顔はいいのだ。それでも、私はそこで居直ってはいけないと思う。「踊ること」は常に「踊らされること」と分離しがたい。が、それでもそこにあるわずかな差違に徹底的にこだわらなければ、いけないと思う。それが「考える」という行為だし、考えなければ、我々は常に悪い方へ悪い方へと流されていく。もうそんなのにはうんざりだ。
小川顕太郎 Original:2000-Apr-4;