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2005年10月21日(Fri)

蝉しぐれ ☆☆☆★

Text by BABA

 20年、人を想いつづけたことはありますか。ババーン!

『たそがれ清兵衛』などの藤沢周平原作、脚本・監督は『渋滞』などの黒土三男、なんでも原作者に断り続けられた末の念願の映画化で、気合いの入りよう尋常でなく、ワンシーンワンシーン、実に丁寧・丹念に映像化されており好感が持てます。

 最近の邦画といえば、雪でも花火でもCG処理で、観客・私に猛烈な「手抜き感」を与えてくれる作品が増えてますが、そういう中にあって四季の風景キッチリジックリ追って、本物を映し出そうとする黒土監督+スタッフの意気込み、それだけで茫然と感動したのでした。

 余談ですが、『KUROSAWA──黒澤明と黒澤組、その映画的記憶、映画創造の記録(映画美術編)』を読みますと、時代劇映画の美術は、様式化された京都に対してアンチテーゼを投げかけホンモノらしさをつらぬこうとしたのが黒澤明監督とそのスタッフ「黒澤組」、綿密に考証して妙なところにこだわりつつ、ときには大胆に時代考証を無視して映像の説得力を産みだしていくエピソードの数々が「黒澤組」へのインタビューで語られておりますが、そんな「黒澤組」の遺産は脈々と受け継がれているようで、『蝉しぐれ』の家屋などリアルさが感じられる美術監督は櫻木晶氏、『影武者』『夢』の美術担当、先の『KUROSAWA』でもインタビューされておられます。余談、終わり。

 お話はというと、藩の跡目騒動に父(緒形拳)が巻き込まれて切腹、「謀反人」の烙印押されて不遇の少年・牧文四郎、ずっと変わらず慕い続けてくれたのが隣家の“ふく”、ところが“ふく”は、殿様の奥に召し抱えられお手が付き、そして20年後、二人は意外な再会を果たすのであった…という、要素的には山田洋次監督『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』と同工異曲、ネタバレですが今回、文四郎と“ふく”、お互い惹かれあいながらも、グッと恋情を抑え込む結末、恋愛が成就する山田洋次監督との大きな違いです。

 ラスト、文四郎と“ふく”が恋情=エゴを抑え込むところは妙に盛り上がるのですけど、なぜ、お互いエゴを垂れ流さないのか? 恋情・劣情を暴発させないのか? そこんところがもうひとつしっくりきていない感じです。よくわかりません。

 この『蝉しぐれ』、エゴを抑え込む二人の姿に、「郵政民営化法案」騒動の結末や「禁煙ファシズム」の跋扈にみられるような、すっかり長いものに巻かれることに慣れきった大部分・日本人は、茫然と涙するに違いない……と一人ごちたのでした。って若き文四郎が父の骸を運ぶ坂道、すさまじくご都合主義的に“ふく”が陽炎の向こうから現れるシーンでは私も泣いちゃったりしたのですけど。

 それから、『隠し剣 鬼の爪』みたくこの『蝉しぐれ』も「魔剣」が登場、牧文四郎の剣の師匠がそれを再現するシーンがあるのですけど、「これはホントにもの凄い!」と驚いたというか呆れかえったというか何が起こっているのかさっぱりわからず、一瞬の間をおいて爆笑してしまいました。あービックリした。

 また少々残念かもしれないのは成長した牧文四郎を演じる市川染五郎、立ち居振る舞いの美しさはさすが歌舞伎役者、ところが少年時代を初々しく好演した石田卓也くんとまるで別人の役者っぽさが漂っており、歌舞伎役者であることが美点でもあり欠点でもあり、ここは難しいところでございます。

 さらに舞台は地方の小藩のはずなのに、なぜかみんな標準語(?)をしゃべっているところはまったく全然いただけません。『たそがれ清兵衛』が方言の美しさをあふれさせたのとは対照的で、美術ががんばってリアリティを産みだしても、台詞で木っ葉みじんに破壊していてはなんのこっちゃでございます。

 とはいえ、ちゃらこいお手軽企画が目に余る2005年秋、じっくりと時間をかけての作品づくりは気色よいのでオススメです。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

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Comments

投稿者 sakurai : 2005年10月22日 00:42

いつもこっそり覗いて、呆然と感動させて頂いておりましたが、とうとう「蝉しぐれ」の回と言う事で、書き込み、TBさせてもらいました。恐縮です。
気合を感じ取って頂いて、嬉しい限りです。監督の決然としたなんかが感じられました。
山田版の方言は地元の人間に取っては、ちょっとわざとらしかったかなと。「蝉しぐれ」の方がどちらかというと、原作に忠実だなと感じております。
まありえちゃんに庄内弁しゃべってもらうのは、京都弁より百倍嬉ですが。
失礼しました。

投稿者 @わ : 2005年10月22日 10:37

NHK金曜時代劇で同作品を観てました。牧文四郎…内野聖陽、お福…水野真紀のキャストでした。内野聖陽の演技が牧文四郎の役柄を好演していて観ていて楽しかったです。

秘剣を伝授するのが石栗弥左衛門…石橋蓮司で、「秘剣村雨」を伝授していました。格好良かったです。金曜時代劇で現在、彼は飯炊き役で出ていておもしろいです。

映画の方が未見ですが、テレビの「秘剣村雨」はCGは使用せず、カメラレンズの視野の内外を利用したオーソドックスな技で、「それもありか!」と感動しました。こういうの好きです。

ちょうど同じ時期に「エースをねらえ」のコーチ役で内野聖陽は出演していて、その演技のギャップがまた楽しかったです。

投稿者 BABA : 2005年10月22日 16:12

>sakuraiさん
コメント+トラックバックありがとうございます。

なるほど! 原作は方言ではないのですね。大いに納得いたしました。

となると、『たそがれ清兵衛』で全面的に方言をフィーチャーした山田洋次監督、偉い! 宮沢りえちゃんの方言は素晴らしかった! ていうか、宮沢りえちゃんは『父と暮らせば』の広島弁もよかったし、京都弁も京都人・私は結構好きなのでした。

一方、『蝉しぐれ』の標準語は、うかつに方言を使うわけにはいかない、という黒土監督の原作に対するリスペクトなのでしょう。しかし私は、映画はやはり方言を使ってほしいと思うのでした。

藤沢周平さんの本は読んだことないのですが、いっちょう読んでみよう! と思います。
これからもよろしくお願いします。


>@わ さん
>NHK金曜時代劇

私は未見でございます。映画は、きっと長いであろう話をうまいこと2時間にまとめているなぁと感心したのですが、きっと一度テレヴィ用に脚本を書いたからこそ、と勝手に想像しております。

よかったら映画もどうぞー。


…ていうか、コメントとかトラックバックとか二重投稿しがちです。ご迷惑をおかけします。うーむ。

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