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2005年10月20日(Thu)

マルチュク青春通り ☆☆☆☆

Text by BABA

 君のために強くなる。ババーン! 

 主人公ヒョンス(クォン・サンウ、好演!)が転校したのは、「荒れている」と評判の男子校。通学バスで見かけた女子高生ウンジュに胸ときめかせるナイーヴな優等生ヒョンス、ところがクラスの番長的存在ウシクと仲良くなってつるんでディスコに行ったりウンジュをめぐって恋の鞘当て演じたり何やかやで成績ガタ落ち、学校の偽善・欺瞞が徐々に我慢ならなくなって鬱屈の日々、やがて…という、70年代韓国、青春グラフィティでございます。

 以下ネタバレですが、なんといってもこの映画が最高に素晴らしいのは、「李小龍主義」を全編に展開しているところ。ん? 「李小龍主義」をご存じない? 少し解説させていただくと20世紀最大の思想家にして武道家、そして映画監督・俳優でもある李小龍=ブルース・リーの哲学を指します。

 ブルース・リーは、数少ない主演映画・監督映画と、功夫(クンフー)を発展させた截拳道(ジークンドー)の入門・解説書で独自の思想・哲学を展開しました。主に映画を通じその影響は東アジアのみならずアメリカ黒人、インド、パレスチナ、世界中の抑圧された民衆の間に広がり、現在もなおその影響を拡大し続けているのであった…。

『マルチュク青春通り』オープニングは『ドラゴン怒りの鉄拳』! スクリーンに映し出されるブルース・リーを茫然とながめる子供時代のヒョンスから始まり、成長したヒョンスが、成龍(ジャッキー・チェン)の『酔拳』が公開されている劇場前で「オレはやっぱりブルース・リーだぜ!」と宣言するシーンで終わるこの映画、「ブルース・リーに対するオマージュ」という言葉では納まりきらず、「李小龍主義が貫かれた映画」と行って良い。

 学校で、風紀委員がデカい顔して弱いものいじめをくり広げるのを目の当たりにし、「やるべきことが決まった!」とヒョンスはブルース・リーの著書にもとづき猛然とトレーニングを開始します。鏡に向かって「はぁ? オレに言ってるのか?」と語りかけるシーンは、ブルース・リー作品と並ぶ男子映画『タクシー・ドライバー』を彷彿とさせますが、このメキメキ肉体を鍛え上げていく一連の場面は心躍るものがあり、ヒョンスはまさにブルース・リーになろうとするのであった。

 ヒョンスがまさに「ブルース・リーになった!」と言えるのは、ネタバレですが満を持していざ風紀委員と対決、「屋上へ行こう」とヒョンスと風紀委員、そのとりまき連中がゾロゾロ階段を上がる場面。ヒョンスは後ろから風紀委員の後頭部をヌンチャクでいきなりドツキまわす! めちゃくちゃ卑怯やん! …ここで私は李小龍の言葉を卒然と思い出したのでした。

「おわかりですか、功夫とはとても卑劣(スニーキー)なものです。中国人のようにね。」(四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』より)

 ヒョンスはこの瞬間、見事ブルース・リーの教えの極意をつかみ実践したのだ、ブルース・リーになったのだ…と、私は茫然と感動したのでした。

「李小龍主義」にこそ、今日の日韓・日中、ひょっとしたら日朝問題を解決する鍵があります。冒頭、「ブルース・リーの話をすれば、誰とでも仲良くなれた」とヒョンスは独白します。そう、ブルース・リーの話をすれば東アジアの友好・共同は円滑に前進するはず。われわれは「ブルース・リーの話」をできる者をこそアジア外交の任にあたらせなければならないのだ。……大仁田厚か? うーん、それはどうか? よく知りませんが。

 それはともかく、70年代韓国男子校の殺伐とした雰囲気がなんか凄いし、『けんかえれじい』『博多っ子純情』『パッチギ!』的不良少年映画としても面白いし、ヒョンスの初恋物語もなかなかに残酷な展開をみせてよい感じ、ケンカシーンも迫力あり、『フィーリング』など70年代ヒット曲の数々も微妙に香ばしい感じ、韓国がいっそう身近に感じられたことでした。

 ブルース・リー好きの方にバチグンのオススメです。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

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