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2005年10月12日(Wed)

シン・シティ ☆☆☆☆

Text by BABA

 この街では、愛さえも闘い。ババーン! フランク・ミラーのコミックスを『スパイ・キッズ』シリーズのロバート・ロドリゲスが、原作者を共同監督に迎え、可能な限り忠実に映画化。

 マンガを映画にするとき、思いっきり原作から離れないとすれば、できうる限り原作に忠実であるべき、演出の正解は常に原作にあり! それはマンガに限らず小説が原作の場合でも同じだと思うんですけど、この『シン・シティ』も『NANA』同様、マンガの映画化として見事な成功例となっております。

 …とはいえ原作は読んでおりませんので適当なこと書いてますが、白黒をベースに部分着色された画面はきっと原作もそうなのであろう、うむ。と思わせるのであった。

 架空の街「シン・シティ」を舞台に、3つの中編をプロローグとエピローグで挟み、少しずつ登場人物が重なるロドリゲス版『パルプ・フィクション』というおもむきです。

 それぞれの物語は往年のフィルム・ノワールを彷彿とさせます。パンフレットの町山智浩氏の文章によると、原作者フランク・ミラーは「『シン・シティ』は劇画によるフィルム・ノワールである」とおっしゃられているそうで、って「フィルム・ノワール」という言葉もよく知らないのでちょこっと調べてみると、

 Wikipediaでは、

 1946年、フランスの映画評論家ニノ・フランクが、アメリカで第二次世界大戦中に製作された『マルタの鷹』『飾窓の女』などの犯罪映画の一群を指して、この呼称を与えたのが起源と言われる。以後フランスの映画評論界において用語として定着し、後にはアメリカにも逆移入された。

 …とあります。ふむふむ。

 一方、『アメリカ映画の大教科書』(上下巻・井上 一馬 著…以下、『大教科書』)によりますと、

 この戦争(引用者注:第二次大戦)がもたらした暗い雰囲気の中で、アメリカでは、

「フィルム・ノワール(暗黒映画)

 と呼ばれる一群の映画が出現した。

 フィルム・ノワールという言葉は、現在ではさまざまな誤解や拡大解釈を伴ってじつに曖昧に使われているが、この言葉を正確に定義すれば、それは、

「第二次大戦前後の暗い雰囲気の中で作られた心理的サスペンス映画」

 ということになる。

 そしてこのジャンルを特徴づけるのは、まず第一に、

「出口のないところに閉じこめられていく感覚」

 である。

 この点で、フィルム・ノワールの映画は、はっきりと性格づけることができるのだ。

(中略)

 そこでは、主人公を取り巻く世界は常に暗く、息苦しくて、全体を閉塞感がおおっている。

「人生に対するペシミズムと陰鬱」

 これが、フィルム・ノワールと呼ばれる映画の、別の大きな特徴である。

(中略)

 本質的には、フィルム・ノワールと呼ばれる映画が生み出される過程で中心的な役割を果たしたのは、ヨーロッパからやってきた人々のペシミズムや閉塞感であり、ナチスに対する強烈な恐怖心だったのである。

 …として、上げられているフィルム・ノワールの代表的監督は、フリッツ・ラング、アルフレッド・ヒッチコック、オットー・プレミンジャー、ビリー・ワイルダー。

 代表作は、『暗黒街の弾痕』『飾り窓の女』『レベッカ』『断崖』『疑惑の影』『白い恐怖』『ローラ殺人事件』『深夜の告白』『失われた週末』『サンセット大通り』『第十七捕虜収容所』『郵便配達は二度ベルを鳴らす』…。

 Wikipediaとは微妙に食い違っておりますね。『大教科書』の定義によれば、「犯罪」が扱われることが多いけれども必要条件ではないようです。

 フランク・ミラーがどちらの意味で「フィルム・ノワール」という言葉を使っているかというと、映画『シン・シティ』は、Wikipediaと『大教科書』両方の定義どちらにもあてはまるので、どちらでもよいのですけど、つまり、『シン・シティ』はフィルム・ノワールである! そして『シン・シティ』がフィルム・ノワールであるなら、現代は「暗い時代」なのだ、と言いたいわけです。はい。

 映画の3つのエピソードは、それぞれ一人の男が、女性問題でどんどんドツボにはまりこんでいくお話。「主人公を取り巻く世界は常に暗く、息苦しくて、全体を閉塞感がおおっている」。世界に色彩はほとんど存在せず、猟奇殺人者が跋扈し、宗教は堕落し、警察は「権力の走狗」としての本質を露わにし、人の命は芥子粒ほどの価値もない。そんな世界で、「これだけは譲れない」というような、生きていることのリアルを追求する者たちは、破滅に突き進んでいく…。

 ナチスに対する強烈な恐怖心が生んだのが、1940年代フィルム・ノワール。現代アメリカも、やれ大統領の支持率が下がればニューヨークに「テロ警報」が出されたり、「禁煙ファシズム」が横行したり、まさにジョージ・オーウェル『一九八四年』的世界となっており、そんな現代のファシズムが生んだのが『シン・シティ』であります。か?

 画面がコミックタッチなのをよいことに『殺し屋1』もびっくりな凄惨な殺人・人体破壊シーンがくり広げられますが、それはファシズムが支配する現代アメリカの姿であり、もしこの映画を「暴力的」と批判する方がおられるなら、出演作での暴力場面を批判されたブルース・リーが、「真の暴力とはヴェトナムで行われている大量殺戮だ」と切り返した故事にならって、真の暴力とはイラクで行われている大量殺戮だと切り返したい…と一人ごちたのでした。

 そんな一人言はどうでもよくて、3つのエピソードが似かよっていて少々変化にとぼしく、カッコいいヴィジュアルもえんえん見せられるとだいぶん飽きて2時間4分は長いかな? タランティーノ『キル・ビル』のように2作品に分かれなかったのはマシですけど、『スパイ・キッズ3』がたったの84分だったことを思うと、これはよくない傾向かも? 

 またフィルム・ノワールのお約束、「ファム・ファタール(運命の女)」も登場しますが色っぽさ・艶っぽさが足りず、ロドリゲスはエロが撮れないのかも? と思いつつ、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のサルマ・ハエックはメチャクチャ色っぽかったしー、と、少々物足りないところはあります。

 しかしワタシ的には人を殺して眉ひとつ動かさない殺人者2人、デボン青木扮するミホと、なんだかデビッド・ホックニーみたいなイライジャ・ウッド演じるケヴィンがツボでした。

 ちょっとしたトリヴィアですが、「シン・シティ」はどの都市がモデルなのか? それはやはりロサンゼルスでございましょう。

 クライヴ・オーウェンが死体を捨てに行き、謎の武装集団に襲われるシーン、ガガーン! とティラノサウルスが映し出されますが、おお! ここはまさしく『ボルケーノ』でマグマがふきだした「ラ・ブレア タールピッツ」。ここは粘り気のあるタール(原油?)が地面に直接ふきだして池になっている場所で、古代からの、池に落ちて死んだ動物の化石が大量に見つかる場所だとか。なるほどそういう場所だから死体を捨てにいった、というわけなのであった。

 その他、ミッキー・ロークはメイク過剰で誰が誰だかさっぱりわからないし、ジェシカ・アルヴァは『ファンタスティック・フォー』に続き好演なのでオススメです。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

公式サイト: http://www.sincity.jp/
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Comments

投稿者 店主 : 2005年10月12日 15:10

あれから雑誌などを読んで知つたのですが、この映画、コマ割りからセリフまで、みんな原作マンガと同じらしいぢやないですか。個人的には、この映画は“語り”がイマイチ、と考へてゐるのですが、それはロドリゲス個人の技量の問題だけではなく、ここにもあるのかな?と。単純に考へて、たとへばマンガはコマの大きさを変へたりして物語に緩急をつけたりする訳ですが、そこらへん、スクリーンの大きさを変へられない映画ではどう処理したのか?などと、いくらでも疑問が沸いてきます。あまりにノペーッとした印象なんですねー、映画としては。そこが新しい、のかな?

ところで、ジェシカ・アルバ扮するナンシー・キャラハンは、やはりハリー・キャラハンと関係があるのでせうか。

投稿者 baba : 2005年10月12日 16:17

>店主さん

> ナンシー・キャラハンは、やはりハリー・キャラハンと関係があるのでせうか

実は関係ありありで、確か原作者フランク・ミラーは『ダーティハリー』シリーズの大ファンなのですが、『ダーティハリー5』のヌルい結末に猛烈に腹を立て、オレがもし『ダーティハリー5』を作ったらこんな話になるはずだ! と描いたのがジェシカ・アルヴァとブルース・ウィリスが出たエピソードである…みたいな話がパンフレットに書いてありました。

> ノペーッとした印象

スーパーフラット、なのかも知れません。

投稿者 shito : 2005年10月13日 16:11

はじめまして。たぶん2年ほど前からだと思うのですが、BABAさんのユニークかつ鋭い映画評に魅せられまして、以来楽しく拝読させていただいてます。
今回TBさせて頂きましたが、私は原作ファンと映画ファンの間で引き裂かれてしまい、非常に支離滅裂な感想で誠に恐縮なのですが、
>現代のファシズムが生んだのが『シン・シティ』であります。か?
と仰るBABAさんの着眼点はやはり素晴らしいと微笑んでしまった次第です。では失礼します。

投稿者 BABA : 2005年10月14日 00:36

shitoさん、はじめまして!
書き込み+トラックバックありがとうございます! おほめにあずかり恐縮です。ていうか、笑っていただけると幸いです。

>私は原作ファンと映画ファンの間で

原作、さっそくAmazonでポチってみたのですが、まだ届きません!

shitoさんも猛烈に映画見ておられますね。これからちょくちょくのぞかせていただきます!
よろしくお願いします。

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