沈まぬ太陽
山崎豊子の『不毛地帯』以来の財界・政界の腐敗っぷりを徹底調査で解明し、小説仕立てで描いた全 5 冊。うちわけは、1 、2 巻が『アフリカ篇 上・下』、3 巻が『御巣鷹山編』、4 、5 巻が『会長室篇 上・下』と結構なヴォリュームだ。
簡単にストーリーを紹介させていただく。「国民航空」(日航がモデル?)のエリートコースを歩んでいた恩地はむりやり組合の委員長にならされてしまう。組合といっても経営とナアナアの組合で組合委員長というのは出世コース。しかし現場の労働者のひどい状況を知り、ダラダラ働いているコネで入社した本社勤務社員の優遇ぶりに憤り、スト権を確立するなど戦闘的な組合委員長としてめちゃくちゃ頑張ってしまい、結局アフリカなどの僻地へ 10 年間飛ばされてしまう。
その間、政府・官僚主導で組合は分裂、利益至上主義の経営がすすめられ、整備不良のまま飛行機が飛ばされるのが常態となって国民航空機の事故が連発。ついには 520 名という航空史上最悪の犠牲者を出す墜落事故が起きる。なんだかんだでアフリカから呼び戻された恩地は、今度は「ひとごろし」などと責められまくる遺族担当というさらにつらい仕事に回される。果たして恩地にやすらぎの日々は訪れるのか…? 腐りきった国民航空に再生の道はあるのか…?
組合でがんばったばっかりに「アカ」のレッテルを貼られ、子どもにも疎まれるがそれでもがんばる恩地さんがかっこいいぞ。あとがきを読むとどうも実在のモデルがいるらしい。いやはや。現場で頑張っている人もいるが、経営陣はジャンボ機墜落事故を起こしてもマネーゲームに手を出して巨額の損失は出すわ、ニューヨークの豪華老朽ホテルを高値で買うわ、逆に遺族への補償はねぎるわでホンマめちゃくちゃ。まあ、こういう利権まみれのアンフェアな奴らってのはどこの会社にもいるだろうし、苦しい思いをさせられるのは常に現場ってことになっているのだが、お前らええ加減にせえよ、と私は言いたい。
戦後の日本、経済は発展したけれど道徳・正義・倫理という概念がどんどん稀薄になって精神的「不毛地帯」が広がっているというのが作者の問題意識で、『沈まぬ太陽』では「国民航空」を取り上げて「不毛地帯」がどのように発生し、やがては人の命を奪うまでに成長していくのかがスピーディに展開し、一気に読んでしまいました。航空会社の内実もよくわかり、もともとボクは飛行機ってのは大ッ嫌いなんだが、コンリンザイ飛行機には乗りたくないぞ! の感を強くした(つまらん結論で申し訳ない)
。ジャンボ機墜落の顛末を描く「御巣鷹山篇」はとにかく迫力があるし、上の方でふざけたことをやってる俗物どもの生態もわかるのでオススメします。
Original: 1999-Sep-30;