京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 99 > 0917_02
Movie Review 1999・9月17日(FRI.)

ひばり捕物帖 かんざし小判

 沢島忠監督の特集上映をやりたいというのがミルクマン斉藤氏、RCS 代表佐藤氏の数年来の悲願。今回の上映は中原康特集にひっかけて様子見の上映。好評だったら大々的にやりたい、とのこと。根強い美空ひばりファンの方々が大勢つめかけ、まずは成功か。若い人もチラホラ。

 上映に先立ち行われた沢島忠監督、ミルクマン氏、佐藤氏のトークよりザッと抜粋してみよう。沢島監督にとって『ひばり捕物帖 かんざし小判』は第三作の監督作で、新人のところにどういうわけか大スターひばりさんの主演作を撮れ、という社名が下る。ところが与えられた脚本は、「そのまま撮ったら今現在の私はなかった」と沢島監督に言わしめるほどのトホホな出来で、監督は奥さんと一緒にうんうん言いながらリライト(ノンクレジットである)

 劇中、ひばりさんが、目明かし、若侍、芸者、弁慶を演じる歌舞伎役者などに七変化を見せるが、これはひばりさんのお母さんのアイデア。「子役で成功した役者が、大人になっても成功するのはむづかしい」という問題の解決策として、当時 19 歳というむつかしい年齢を生かしつつ今後につなげるための七変化だった。沢島監督は「どういうわけかひばりさんに気に入っていただいて」、その後ひばり映画を多く手がけ、さらに舞台の演出も手がけることになった。

 東千代之介の豪快な侍が傑作であるが、当時ツンとすました役が多かった千代之介だが、実はお酒が入ると「力道山も逃げ出す」ほどの豪快さん。これを今度はやってみようということで千代之介の芸域を広げた。確かにこの映画の東千代之介のムリヤリな豪快さんぶりは笑かしてくれます。

 ともかく『ムトゥ 踊るマハラジャ』をホウフツとさせる、映画が圧倒的多数の人びとに支持され、作り手もそれに応えようという気概にあふれたウルトラハッピーな映画と言えよう。当日、美空ひばり後援会と思われる方々が登場シーンのたびに熱烈に拍手されていて「黄金時代」に作られた映画を見ることの喜び。

 キズがほとんどないニュープリントのフィルムは美しいものであった。東映時代劇といえば普段テレヴィでカットされた色調も褪せまくったものを見せられることが多いのでこれは素晴らしい。さらに時代劇となると「メクラ」「オシ」「ツンボ」「キチガイ」「コジキ」「ビッコ」などの言葉がごく当たり前に出てくるが、それらをキッチリ聞くことが出来るのも素晴らしい。ってこんなことを素晴らしく思えてしまう今のテレヴィがバカ過ぎるのだが。なんとかしてくれ。

 中原康、沢島忠に「モダニスト」というワケのわからないレッテルを貼るのはいかがなものかとは思うが、今回の上映&トークは日本映画史の空白を埋める作業で拍手を送りたい。日本映画の旧作をおいそれとはスクリーンで見ることができない状況があり日本映画好きのワタクシなどは欲求不満の日々が続いておるのでこういう企画はドシドシやっていただきたいものである。

BABA Original: 1999-Sep-17;

レビュー目次