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Movie Review 1999・11月09日(TUE.)

ポリー・マグー お前は誰だ

 奇妙な題名であるが、「ポリー・マグー」とは主人公のスーパーモデルの名前で、「お前は誰だ」とは、毎回時の人を取り上げ、その素顔を探る映画中のテレヴィ番組のタイトルだ。この映画はその番組の製作過程を軸に、謎の王子、そのエージェントがからみ、脱線しまくって物語が進む。途中でスジを見失わないようご注意。

 なんちゅうか、最近ヤングに大人気らしいグルーヴィジョンズ製作の予告編を見て「おらあ、こげな小洒落た映画ぁ、一生見ねぇだ」と決心されている方もおられましょうが、そういう方ほどこの映画を見た方がいい、と私は言いたい。

 なんとなれば小洒落たものを小馬鹿にしまくっている映画なのである。ファッション・フォトグラファーとしても有名な W ・クライン、と聞くとますます見る気が失せようというものでしょうが、W ・クラインってのはスタンリー・キューブリックに並ぶ映像感覚を持ち、J ・L ・ゴダールと同じくらいアナーキーでパンクな映画監督。しかもキューブリックやゴダールより「お笑い」がわかっている(と思う)

 キューブリックが『ポリー・マグー〜』を見て「あなたの映画は 10 年間、時代を先取りしている。私とあなたの 2 人はアメリカで最も優れた映画監督だと思う」(※)と手紙を送ってきたとか。10 年どころか、この作品が作られて 33 年後の現代日本でも充分通用する、ていうかそのラジカルさ、政治性はより切実になっていると思えてならない。

 この映画で笑いのネタにされているものは多岐にわたる。ファッション業界の愚劣さ、マスメディア、ジャーナリスト、インテリゲンチャのくだらなさ、そしてフランス人のマヌケさが嘲笑の対象になっている。フランス人のエスプリ――他人を小馬鹿にして笑いを取る――の愚劣さを告発するシーンは「パリのアメリカ人」たる W ・クラインの怨念がこもっていると思えてならぬ。とにかく心が洗われるパンクな傑作だ。

 さて余談だが(ホントはこっちが書きたいことなんだが)、この映画のパンフは驚くべき事になんと 2100 円なり。にせんひゃくえん!? しかもデカパンだ。ちなみに「デカパン」とは収納の便をまったく考慮しない、普段映画なんか見に行かない馬鹿がデザインしがちなデカいパンフのこと。どうしてこういうことを、しかもよりによって W ・クラインの映画でやってしまうのか? キミら、映画を見ないでパンフを作っているのか? こういうエンドユーザーの利便を無視してデザイナーが暴走することのアホさ加減を『ポリー・マグー〜』の冒頭の金属の服のファッションショーは批判しているのではないのか? わざとやっているのか? あ、そうか、だからパンフも金属を連想させる銀の用紙に印刷されているのだな。いや、わかったから、普通のパンフを作ってくださいよ。お願いします。頼むから。

『ミスター・フリーダム』の 1800 円のパンフ? も目眩がしたが、アレはまだ W ・クラインのロング・インタヴューなど一部読み応えのあるテキストが掲載されているのでマシだった。今回は救いようがないぜ。日本語の文字組も素人臭いし。

 まあ、こういういちびったクリエイターどもはいつの時代にもはびこるものだと思うので、W ・クラインのラジカルさも永遠のものなのかな? と思う。今回の上映にあたっての馬鹿みたいなパンフ、白痴的な予告編、オリジナルポスターの方がよっぽどカッコいいぜ、と思うタコポスターなどなどの宣伝が映画のイメージをいかに歪めようとも W ・クラインは不滅です。たとえ馬鹿な宣伝であっても、この映画を再公開してくれた配給会社に心から感謝いたします。

(※:「STUDIO VOICE」VOL. 285 SEP. 1999  『ウィリアム・クライン ロング・インタビュー』より)

BABA
Original: 1999-Nov-09;

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